BIGLOBEの「はたらく人」と「トガッた技術」

週末を活用して世界一周を達成した注目の“リーマントラベラー”に聞く「休み方改革」とは(後編)

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こんにちは。 BIGLOBE Style 編集部です。

2020年2月13日に開催される「BIGLOBE Style イノベーションミーティング2020」。BIGLOBE Style編集部は、時代を牽引するイノベーターたちが語り合う同イベントに登壇するリーマントラベラー東松寛文さんに、お話を伺いました。

前編となる前回は、東松さんが世界中を旅するようになったきっかけを探りましたが、今回は「働き方改革」ならぬ「休み方改革」に行きついた彼の想いに迫ります。


―――――そもそも休めなかった人が、どうやって休む権利を勝ち得ていったのでしょうか

最近は、働き方改革で有給を5日間取らなきゃいけないと制度的にも決まっていますけど、ぼくが頻繁に旅行をするようになった2013年当時では、そんな社会環境ではありませんでした。でも、旅行に行きたいんです。なので、できる範囲でやってみようと思って始めたのが、週末旅行だったんです。

週末っていう概念は、これまでは土曜の朝起きてから日曜日寝るまでだと思っていたんですけど、それだと行ける海外がせばまります。しかし、ぼくにとっての週末は、金曜日仕事終わった瞬間から月曜日仕事始めるまでだと定義したんです。そうするとプラス16時間、週末が増えます。48時間週末が64時間に。そこまであったら海外に行けます。金曜日の夜に空港に向かって土曜日の朝を海外で迎えて、日本で起きたくらいの時間から向こうで活動をスタートします。この方法でどんどん海外に行けるようになりました。

そうやって海外に行くことで、会社に対して「休み」キャラを作ります。そして、3連休にプラス1日だけ休みくださいという風に伝えていきました。4連休あれば、行ける所は結構ありますし、4連休と言いながらも、プラス16時間ついてるんで、実質4泊6日で旅行できます。このようにして、どんどん海外に行けるようになりました。

――――職場の人たちとはどういう風に調和していますか?

昔はやっぱり「また行くの?」「お前、それじゃ月曜日疲れるんじゃん」という意見がありました。旅行に行き続けようとすると周りの理解が必要です。ぼくは、仕事も大事だし旅行も好き。ただ、旅行に行くために休みを取ると、誰かに替わりに(仕事を)やってもらうことになる。であれば、その人が休む時に休みやすいよう、替わりに仕事を積極的に引き受けます

例えば、お盆の時期って、家族がいると休みたいじゃないですか。でも、ぼくは、お盆の時期はガンガン働けます(笑)。みんなが休みたいときにぼくが働く形で、ギブアンドテイクしています。誰かが休むという情報を聞きつけたら、「引継ぎましょうか?」とか。自分から攻めに行って(笑)

あと、わかりやすい調和は、お土産ですね。お土産って最近「買ってこなくていい」論があったりしますけど、ぼくは本当にそういう発想はダメだと思っています。仕事を休んでいるのは、もちろん権利なんですけど。一方で休んでいる時に働いている人がいるという事実は変わりません。その人達に対する感謝は、きちんと伝えるべきだと思う。

しかし、大きなお土産を買ってきて、共有スペースにボン!だとそりゃ感謝は伝わりません。そこで、ぼくは、ちゃんと小さくても定番でもいいので、小分けのものを直接配って感謝を伝えます。それを繰り返しやることによって、また旅行に行きやすい環境を自分で作っていきました。社会の環境や上司、先輩の考え方が変わらない中、旅行に行こうと思った時、少しでもぼくの活動を理解してもらおうと考えました。

SNSもそうです。例えば現地でカクテル片手に「イエーイ!」みたいな写真は、日常で見ている人からするとウザいじゃないですか。そうじゃなくて、現地でちょっと面白い写真を撮れれば、アップしてもOKかなと考えました。

2013年1月に3日間で韓国に行ったんですけど、時間が余りました。最後の日が暇だったので、当時流行っていた「江南スタイル」のPSY(サイ)さんと全く同じように髪の毛固めて、白いシャツ買って、サスペンダー付けて、サングラスも買って、市場で写真を撮り、SNSにアップしました。すると、「いいね」がいつもの3倍くらいつきました。

それ以来、何か面白い写真をアップしようとしています。そうすれば、ぼくも海外行った時にSNSで発信できるし、みんなも楽しく見てくれると思いました。そうやって全力で楽しんでいる写真をアップし続けていると、まわりもどんどん理解をしてくれて、「また休むの?」って言われていたのが、途中から「次どこ行くの?」に変わっていきました。「次どこ行って何するの?」みたいに変わったことで、さらに旅行に行きやすい環境に変わりました。

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―――東松さんは「働き方改革」を超えて「休み方改革」とおっしゃっていますが、これはどういう意味でしょうか。

ぼくは、「働き方改革」が叫ばれる前の2012年から「休み方改革」を実践していました。金曜日の夜に空港に向かおうとすると、金曜日は絶対に定時で帰らなきゃいけない。定時に帰るためには、それまでの仕事のやり方だと終わりません。そのため、月曜日から自分で締め切りを決めなおします。

例えば、翌週月曜日の朝に提出すれば良かった仕事は、昔だったら金曜日の夜遅くまでやっていました。結果、金曜日中には終わらなくて、飲みに行こうという流れになり、結局、土日も会社に来て仕事していました。それを絶対に金曜日終わらせるために、締め切りを自分で決めなおしました

ただ旅行に行きたいから締め切りを自分で前倒しただけなんですけど、与えられた仕事が自分で決めた仕事に変わって、主体性が生まれました。休み方を変えたことによって働き方が変わっていった。旅行でインプットして仕事でアウトプットに生かしたり、良い影響がたくさんありました。休み方を変えたら、勝手に働き方が変わって、生き方まで変わりました

だから、休み方を変えることは、働き方改革の本来の目的である生き方を変えることに直結していることを、自分の実体験を踏まえて伝えたいです。

一方で、働き方って自分の力だけで変えられないものも多い。仕事の量が変わるわけじゃないし、制度なんて会社次第です。上司が嫌な人であっても、人が簡単に変わるわけじゃないです。働き方改革を待っているだけだと、いつまでたってもなにも変わらない。でも、休み方は、自分のペースで休みを使うだけなんで、全員平等に持っている権利。好きなことをやりたいという気持ちで、ちょっとチャレンジしてみるだけで、人生や未来も変わるかもしれない。こんなお得なことないんじゃないかなと思います。それは、サラリーマンを辞めなくてもできる

ぼくが世の中にちょっと違和感を感じていることは、起業や転職している人が格好良くて、大企業にずっと勤めている人はダサい、みたいな価値観が強くなっていること。そんな格好良い人たちの自己啓発本を読んで「よし、やるぞー!」とその時は思うんだけど、翌日ちゃんと考えたら、できないことばかり。

でも、起業家ではなくサラリーマンをやっているからこそ、休み方改革をちょっとチャレンジしてみて、自分の感覚的に何か違ったら、改革をやめることもできる。サラリーマンだからできる方法なので、多くの人に伝えたい気持ちが生まれています。休み方を変えることなら、次の休みから始められる。みんなにチャンスがあって、自分の未来を変えられる可能性があります。そして、ぼくがサラリーマンなので、サラリーマンじゃない人が伝えるよりも共感してもらえる可能性が高いと思います。

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――――それだけ忙しくしていると、体調管理はどうされてるんですか?

(週末旅行に行くと)正直疲れるんです。でも、心が回復しているんです。肉体と精神の回復って別モノだと思っていて、旅行に行かなかった週末と行った週末のどっちが翌週軽やかに仕事ができるかというと、圧倒的に旅行に行った週末なんです。

体力は日々の調整でなんとかなります。旅行に行った週の月曜や火曜は、会食とかを少なめにして早く帰るようにしています。日中、仕事を頑張って、ちょっと早く帰って寝るとかで調整できます。ぼくは、非日常を体験することで心が回復すると思っています。そんな心の回復がぼくにとってはとても重要です。

―――2020年2月13日に東松さんに参加いただくイベント(BIGLOBE Styleイノベーションミーティング2020)があります。登壇者は異業種のイノベーターが集まりますが、東松さんはどういったことを期待していますか?

ぼくの話は、旅好きの人の方が気づきやすいんです。でも、ぼくが伝えたいことは、むしろ旅好きじゃない人にも伝えたいんです。一冊目の本のタイトルも「サラリーマン2.0 週末世界一周」なんですよ。あえて「サラリーマン2.0」って謳っているのは、旅に関係なく、サラリーマンに気づいて欲しい、という意味があるからです。今回のイベントは登壇者もいろいろいらっしゃるので、ぼくが普段伝えられない人たちにも、こういう世界があること、自分たちの生き方に選択肢があることを伝えるられる場になりそうで、ワクワクしているというのが一番大きいですね。

―――最後に、学生や若い社会人で、モヤモヤしている人もいっぱいいると思うんですけど、その人たちにメッセージをお願いします。

今、世の中には、何者かになったほうがいい、というような強いメッセージが多いと思うんですけど、正直そんなものになる必要はないと思っています。何かになりたいと思うタイミングって人それぞれですし。それよりも、一番大切なことは、自分を知ることだと思っています。自分と向き合う時間は昔より減っていて、あえて作らない限りは中々向き合えないと思います。

自分と向き合うために一番わかりやすい方法が、ぼくは旅だと思います。日本にいるとやっぱ時間が無限のような気がするので、なかなか選択ってしないんですけど、旅に行ったら時間が有限の分、ちゃんと選びます。その中に眠っているのは、自分の「好き」だと思うんです。その「好き」の気持ちって大切にした方がいいと思います。そういった所から自分と向き合って、自分のやりたいことを見つける。見つかったら後は、とことん言い続けることが大切です。

ぼくは、22歳で一回夢を諦めたんです。小さい頃から、本出したかったんです。体育会出身だし、こっぱずかしくて言えなかったんですけど。22歳、社会人になるタイミングで、(夢を)誰にも言えずに人知れず諦めたんです。でも、28歳でやりたいことが見つかって、その時に宣言したんです。「本を出版します」って。そう宣言したら、30歳で夢が叶った。

今、夢を叶える場所が増えていると思います。これまでは、仕事か家の中でしか夢を叶えられなかったのが、今のぼくみたいに、会社の外の仕事以外の時間で夢が叶うパターンもあります。チャンスもいっぱい落ちているからこそ、改めて自分と向き合って、そこから逃げずに向き合うことで、新しい自分の一歩が見つかると思います。ぼくの経験が、そんなきっかけになると嬉しいなと思います。

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東松寛文(リーマントラベラー)

1987年岐阜県生まれ。平日は広告代理店で働く傍ら、週末で世界中を旅する"リーマントラベラー"。社会人3年目に旅に目覚め、年間で67カ国146都市に渡航。2016年、3ヶ月で5大陸18カ国を制覇し、世界一周を達成。地球の歩き方から旅のプロに選ばれる。以降、TV・新聞・雑誌等のメディア出演・執筆多数。全国各地で講演も実施。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『休み方改革』(徳間書店)。『サラリーマン2.0』は台湾にて中国語版も発売中。