イノベーティブな取り組みや人物を紹介するメディア「BIGLOBE Style」では、「時代が変わる2020年」をテーマに各ジャンルのゲストによる特別寄稿を掲載します。
第3弾となる今回は、DIGDOG代表の陳暁 夏代氏に、等身大の目線でとらえた日常生活の変化について寄稿いただきました。
今年も夏の猛暑日和がきた。外ではいつの間にかどこからともなく現れたセミの群れが灼熱に刃向かう如く一斉に鳴いている。
私は夏がとても苦手だ。
30度を超える外出は本当に耐えられない。耐えられない理由がいくつもある。
まずは持病からだ。正式な病名は避けるが雑にいえば“太陽アレルギー”だ。長時間灼熱の太陽に当たっていると体に蕁麻疹ができる。地球にとって最大のエネルギーを敵に回すなんて我ながらすごい度胸だ。太陽は好きだ。日向ぼっこが好きだ。自分の体が太陽にあたりキラキラと輝く光景は好きだ。なのにだ。この病気は完治するような治療法はなく、日頃の日焼け止めやアレルギー薬で地味に対応するしかない。ところがその地味な対処がどうも面倒である。丁寧に日焼け止めを塗り、きちんと薬を飲む行動を避けて通る道は「日が照らす時間に外出しない」ということだ。この病気を発症してからドラキュラを見ると妙に親近感が湧く。「だから彼は年中厚着で暗室にいるのだな」と同情する。私も夜は活発だ。この病気を患ったのはここ数年なのだが、幼少期から妙に夜行性だった。私の中では夜行性とアレルギーの辻褄が合ったことで余計夜型に拍車をかけてしまった。
とまあ、太陽に耐えられない体の話をしたが、そんな病気がなくとも夏は苦手だ。これ以上脱げる服がないほどに汗をかくし、空が眩しいと目が開かない。眩しい空の下にいる時の私の顔は般若のようになっているであろう。それも好きではない。長時間外出しようものなら帰宅後に平常心に戻るには時間がかかる。人と比べても暑がりなのだろう、エアコンの温度設定はいつだって低い。夏生まれという理由で“夏代”という自分の名前ももう少し涼しくならないものだろうか。夏を背負うくらいならこの病気はなくしてくれないか。夏のキャンペーンガールにもなれないじゃないか。全く、夏は苦手だ。
ところでセミの話だが、セミは7日で死ぬという通説はやはりデマらしい。
おそらく私も含め多くの人は夏にミーンと鳴く姿のだけをセミとしているだろうが、幼虫から数えると、アブラゼミは2~5年、クマゼミは4~5年地中で育つ。一方カブトムシは、卵から成虫になり死ぬまでおよそ1年だ。虫界の知名度は両者ともに高いが、セミは我々が思うより長命の昆虫なのだそうだ。
そして、セミは夏になると繁殖目的で我々の知る姿で外にでて、木に登る。長ければ1カ月も生きるそうだ。それなのに7日の寿命という通説が広まった理由はなんなのか。私の推理でしかないが、人間の慈悲なのではないか。夏の暑い日にこんなにも大きな声で大合唱する彼らへの許しなのか。騒音のように響くセミの大合唱も、7日しかない命だと思うとなんだか嫌悪する気にはならないのではないか。「7日で死ぬんだったら鳴かせてやるか」人間様のお通りだ。なんだか合点がいく。7日間の命というのも、そういう意味ではセミにとって良いデマではないか。後から調べたが、繁殖目的で地上にでたセミは大きな声で鳴いてメスを呼び寄せているらしい。そう、鳴いているセミはオスだけだ。そして繁殖が済んだら力尽きて地面に落ちて命を落とす。
セミは暑くないのか、暑いから脱皮をするのだろうか。「体ごと脱げるなんて羨ましいなあ」なんて、そんなことを考えながら意識しないと聞こえてこない夏の風物詩に耳を澄ませた。
2020年も9月になった。新型コロナウイルスの感染が拡大してから半年が過ぎた。
「時代が変わる2020年」というタイトルを見るとどんな文章を想像するだろうか。感染者数か、注目すべき新しいビジネスモデルか、新型コロナウイルスが経済にもたらす影響か、米中の覇権争いや国際情勢か、未来への示唆か、はたまた人類が乗り越えてきた疫病や時代の変化の話か。
2020年、私にとってはちょっとだけ変わった日々だった。全世界が同じニュースを放送し、距離を意識しマスクをつけた。それ以外は、急な友人の死も、急な親の病気も、急な仕事のトラブルも、大好きな飲食店の閉店も、急なことが急に起こる、いつも通りの日々だった。
もう少しで今年も終わる。
2020年、皆さんはどんな1年だっただろうか。
私は9月に入籍をした。例年より多く散歩をした。例年より多く家で映画を見た。例年より多く本を読んだ。例年より多く家族と会話をした。これまでの人生で一番愛する人に出会った。
時代は毎年こうしてちょっとずつ、変わって行くのだと思う。
2020.9.23 陳暁夏代
陳暁 夏代(DIGDOG 代表)
日本と中国の背景を持ち、2011年より2年間北京・上海・シンガポールにてファッション×芸能事業を手掛ける。2013年東京に拠点を置き広告代理店に勤務後、2017年日中双方における企業の課題解決、ブランディングからアウトプットまで一気通貫で行うDIGDOG llc.を創業。2019年にはコンテンツスタジオCHOCOLATE Inc.に執行役員としてジョイン。カルチャーに寄り添った ブランディングや若年層マーケティングを多く手がけている。その後は中国へのアーティスト斡旋や催しの企画実行、日本のIPの中国輸出などに両国のコンテンツ産業の橋渡しに力を入れている。近年では個人のアートプロジェクトも手掛けている。