山を降りて感じたこと ー「日本の林業」について、考えたことはありますか?

「BIGLOBE Style」では、「SDGs」をテーマに社内外の様々な事例やトピックスも今後ご紹介していきます。 今回は、ライターの大沼芙実子さんが体験した森林づくりのボランティアを通じて、「日本の林業」についての気付きを綴っています。
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東京で会社員をしている私は、先日、岐阜県で森林づくりのボランティアに参加しました。
「自分が日本の林業について、何も知らない」ということに気づき、改めて日本の林業について調べてみました。そこには、私たちがサスティナブルに自然と共生するためのヒントがありました。
今回は私が調べたことと感じたことをお届けします。

「木がたくさんあって気持ちいい!」 そう見えた森は、「かわいそうな森」でした

東京生まれ、東京育ち、両親の実家は渋谷区と新宿区。
東京しか知らない私は、日本の田舎とされる地域やそこで営まれる産業に憧れがあり、たまにボランティアに参加しています。
私が「森林づくり」のボランティアに興味を持ったきっかけは、この夏からプロボノとして関わっているNPOの活動でした。お誘いを目にしたとき「そういえば、農業や漁業のお手伝いに行ったことはあるけれど、林業って、全然知らないなあ」と、参加を決意。すぐに申し込みました。
当日は東京から新幹線で名古屋まで向かい、在来線を乗り継いで約3時間、岐阜県揖斐郡で活動に参加してきました。

実際に森に入った時の印象は、「木がたくさんあって気持ちいい!」。東京の生活ではなかなか出会えない自然の姿でした。
しかし同じ森を見て、ボランティアの先生である地元の林業従事者の方は言いました。

「かわいそうに、手入れされていない森だね」

どういうことなのでしょう?
この言葉の意味を知るには、まず森林と人間との関係を理解する必要がありました。

日本の森林・林業はどんな状況?

まず、日本の森林・林業の状況を見てみましょう。
日本の国土の約2/3は森林ですが、そのうち4割は「人工林」と呼ばれる、主に木材生産のために人間が種を蒔いたり植栽をし、その後も間伐などの手入れをしている森林です。現在の日本では、「人工林」のうち半数が木を植えてから50年以上が経ち、木材としての利用に適した時期を迎えています。この木たちは、まさに50年前の先祖たちからの贈り物。長い歳月をかけ、何代もに引き継がれて手入れがなされ、適齢期を迎えています。

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(林野庁HP「令和元年度 森林・林業白書 概要」より
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r1hakusyo/gaiyou.html

しかし、日本の林業は、こうした適齢期の人工林を十分に活用できていない現状があります。その理由は、国産材の活用が進んでいないことと、林業に従事する人材が減っていることにあります。
木材の需要や国産材の自給率は、木材自給率が最低となった2002年から比べると年々増加しています。それでも低い関税で輸入材が容易に手に入る背景などから輸入材の割合が高いのが現状です。
また、林業従事者数の低迷や高齢化も顕著です。若手従事者の育成はもちろんのこと、所得の向上や労働安全の確保などが課題となっています。

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(林野庁HP 「森林・林業・木材産業の現状と課題」より https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/genjo_kadai/

私がお邪魔した森は、前述した「人工林」です。「人工林」でなされるべき手入れにはいくつもの過程がありますが、今回ボランティアで関わったのは、「除伐」や「間伐」と呼ばれる作業でした。「除伐」とは、植栽木の成長を妨げる雑木や形が悪く木材としての価値が低い植栽木を取り除くこと。「間伐」とは、一部の植栽木を伐採して立木密度を調整することです。これらの作業を行わないと木が密集して光が入らなくなり、木の生育に支障が出るほか、森の地面を保護する低い木や草たちが消失して土砂流出に繋がったり、幹の細い木ばかりが育ってしまうので風雪に弱くなったりといった被害につながります。

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(林野庁HP 「森林・林業・木材産業の現状と課題」より https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/genjo_kadai/

私が入った山も木が密集し、全体的に暗い印象でした。初めて山に入る私が不思議に思った、「かわいそうな、手入れされていない森」という表現は、これらの除伐や間伐がなされておらず、健康体とは言えない人工林の状況を表した言葉だったのです。

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(実際の森の様子。木が密集しているからこそ、日光が入るとこんな神秘的な風景になります。)

山に入って知ったこと

「この森の中で、一番お金になりそうな木を残す。お金になりそうな木の生育を邪魔する木は切って、残った木がしっかりとした材になる為の犠牲になる。結局トップに上り詰めるのは数本と思うと、会社と同じでしょ?(笑)」
指導をしてくださった先生は、私たちにまずこう説明をしました。なるほど、そんな風に木を選抜をし、より良いものを残すという思想があることに驚きました。私たちは一帯で一番太く、まっすぐに生えている木を選定しました。その木の日当たりを邪魔している細く曲がった木や、枝分かれをしていて形の悪い木を数本、のこぎりで伐採します。
1本の木を切るにも、慣れないのこぎりを使うのは一苦労! 細く見える木でも、水分を含んでいるため予想よりずっと重く、短く裁断しても運ぶのにもまた骨が折れました。いかに労力のかかる仕事かを体感しました(通常はチェーンソーを活用し、省エネ、短時間で作業を行うそうです)。
そのほかにも、木に切り込みを入れ倒木させる「受け口」と言う手法を用いて木を倒す体験をするなど、山の職人の技術を実際に見ることができました。ちなみに、林業の世界では倒木作業を「widow maker」(未亡人を作る機械)と呼ぶそう。それくらい、危険と隣り合わせの仕事であることがわかります。

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(実際の作業風景。慣れない筆者は、少しの高さでも怖がってしまいました)

一生懸命育った木だけれど、こんな風に簡単に切られてしまう。”選ばれた木”のために犠牲になる木たちを思うと、少し切ない気持ちになりました。
切られた彼らは、ただの「森のゴミ」としてもう役に立たないのでしょうか?

間伐された木は、どうなるの?

「この木たち、このままもうおしまいなんですか?」
先生に問いかけると、意外な答えが返ってきました。
「いや、彼らは森を作ってくれるんだよ」

間伐された木たちは、そのまま森に残しても役に立ちます。菌類などによって分解され、養分として土の中に染み込んで土壌を豊かにしたり、きのこの苗床となり新しい命を育んだりするそうです。また、最近では間伐材から燃料になる木質ペレットが作られたり、割り箸や紙の原料にもなったりします。
私は日常生活で「なるべくゴミは出さないようにしよう!」と意識していて、コンビニでも割り箸をもらわないようにしていました。けれど、この切られた木たちが「木」という性質を全うし、私たちの生活を豊かにしてくれると考えれば、割り箸に一概に罪悪感を持つ必要もないのかもしれない……と感じました。

山に入り、山を降りたからこそ気づいた、利己的な「いつもの日常」

作業が終わり、麓の車に戻った時。先生は運営事務局に「今、山を降りたから」と電話をかけました。私たちは、ただ物理的に山を降りただけ。でも、私にとっては、「山に寄り添い、山を利用する、自然と共生する利他的な人間世界」から「便利・安価に流され続け、自然と向き合わない利己的な人間世界」に戻ってしまう、その境界を象徴する言葉のように感じました。

ふとしたきっかけでお邪魔した日本の人工林で、思いがけず大きな学びと発見を得ることができました。これから木質製品を購入するときには、国産材かどうかをついチェックしてしまいそうです。

東京の家に帰り上着のポケットを探ると、森で切ったヒノキの端材が入っていました。
「お風呂に入れるといいよ!」
と言われてもらってきた端材でした。匂いを嗅ぐととても良い香り。お風呂に入れて数日「ヒノキ風呂」を楽しみました。
こんな風に「自分とは遠かったもの」、が「自分の身近なもの」に変わっていく経験は楽しいものです。次はどんなところに行こうか。ワクワクしながら探しています。

(文:大沼芙実子/編集:中山明子)

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