新科目「公共」の導入と「シティズンシップ教育」が切り拓く未来(前編)

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「BIGLOBE Style」では、「SDGs」に関する社内外の事例をご紹介します。今回は、ライターの柴崎真直さんが、シティズンシップ教育について紹介しています。

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2022年から、高校の授業が変わる。高校教育の学習指導要領が改訂され、新たな必修科目として「公共」が導入されるのだ。これは私たちにとって馴染みのある「現代社会」や「公民」の科目を刷新したものだ。従来の教室で先生の話を聞くだけの授業ではなく、ワークショップや調査活動など、実践的な活動を取り入れるようだ。

生徒の積極性を引き出すこのような教育のあり方として、近年「シティズンシップ教育」が注目されている。この記事では、その内容や背景を、実際の取り組みを交えながら紹介する。

 

「シティズンシップ」=社会への参与

もともと、欧米諸国を中心に導入されてきたシティズンシップ教育。2006年に経済産業省が発表した『シティズンシップ教育宣言』をきっかけに、近年日本でも関心が高まっているようだ。

文部科学省のHPには、「シティズンシップ教育」に関して以下の説明がある。

 シティズンシップという言葉は、もともとは国籍や市民権という言葉があったが、そこに参加的な市民という意味が加わって、ブレア政権下の「市民性教育に関する委員会(クリック委員会)」により定義されたものである。その教育内容としては、社会的・道徳的責任、コミュニティへの関与、政治的リテラシーの3つで構成され、後にアイデンティティと多様性が加わった。

出典:「子どもの徳育に関する懇談会(第5回) 議事要旨」(文部科学省)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gijiroku/1251850.htm

(2020年12月4日に利用)

 

「シティズンシップ」とは、コミュニティや政治など、社会的な活動へ積極的に関わることを意味するようだ。「シティズン(citizen)」の日本語訳である「市民」には、国政に参与する権利をもつ人という意味が込められている(大辞林 第三版より)。若者が政治に対して無関心だと問題視されて久しいが、シティズンシップ教育はこの問題に歯止めをかけることができるかもしれない。

そして、説明はこのように続く。 

学習の形態としては、活動型の学習を重視した取組になっており、教室の内外を問わず活動を重視している。カリキュラムとして取り入れるだけではなく、学校自体の民主化、地域との連携を重視した総合的な取組であり、市民性教育を学校教育の中心に据えている。

出典:「子どもの徳育に関する懇談会(第5回) 議事要旨」(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gijiroku/1251850.htm
(2020年12月4日に利用)

 

「民主化」や「地域との連携」など、教室外(=社会)での実践的な活動を意識した教育方針といえよう。

日本では、大学進学を機に一人暮らしや実習課題などで学校外とのコミュニティとの関わりが増える。筆者は現役大学生だが、地域の町内会議に毎月参加している。珍しいかもしれないが、自分が住む地域のことを自分ごととして捉える良い機会になっている。卒業を間近に控えた今は、学内にいるだけではできない体験や知識が得られる場に早い段階から参加していれば、より社会との接点を意識して勉強できたかもしれない、と思う。

 

なぜ今シティズンシップ教育なのか?

このような行動重視型の教育に移行しているのは、グローバル化をはじめとする急激な社会の変化に先陣を切って対応できる人材が求められている背景がある。座学ではなく活動に重きを置くシティズンシップ教育は、社会の変化や危機に立ち向かうための初歩的な訓練として期待できる。

しかし、これらの課題は決してここ数年間で生じたものではない。シティズンシップ教育は1990年代から政府によって公式に導入され始めたという。イギリスやアメリカでは、それぞれ「シティズンシップ」や「市民科」という教科名で実際の教育現場に導入されている。

(参考:橋本将志. 日本におけるシティズンシップ教育のゆくえ. 早稲田政治公法研究 2013年, 101, p.63~67.

(早稲田大学リポジトリ)

https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=7225

(参照 2020-12-04)

 

実践例としては、クラス全員で輪をつくり、自分の意見や主張をお互いに聞いたり伝えあう「サークルタイム」と呼ばれる授業がイギリスの初等教育で行われているようだ。

日本におけるシティズンシップ教育の先駆的な取り組みは、2006年に東京都品川区の区立小中学校で導入された「市民科」だ。「これからの社会を主体的に生きていくために必要な資質と、直面する課題に適切に対応できる能力の育成」を目標に掲げ、生徒会活動やクラブ活動、学校行事を通じ、「実践的に活用できる態度や行動様式、対処方法」を学ぶカリキュラムが組まれている。そのうちの一つである茶道の授業では、礼節を重んじ、謙虚さをもって相手に接する態度を学ぶそうだ。

(参考:新しい学習「市民科」|品川区

子どもたちの社会性を育むこれらの授業は、より良い未来のために行動できる社会の担い手を育成する取り組みといえる。

 

新科目「公共」とシティズンシップ教育

冒頭で述べた新科目「公共」は、生徒の主体性を引き出し社会参加を促すという点で、シティズンシップ教育の一環といえるだろう。

以下、文部科学省のHPから「公共」に関する説明を引用する。

新必履修科目「公共(仮称)」では、第一に現代社会の課題を捉え、考察するための基準となる概念や理論を、古今東西の知的蓄積を通して習得し、第二に選択・判断の手掛かりとなる考え方や公共的な空間における基本的原理を活用して、現代の社会的事象や現実社会の諸課題について、協働的に考察し、合意形成を視野に入れながら構想したことの妥当性や効果、実現可能性などを指標にして議論する力を養うとともに、第三に持続可能な社会づくりの主体となるために、様々な課題の発見・解決に向けた探究を行い、「平和で民主的な国家及び社会の形成者」として必要な資質・能力を養うことが考えられる。

 

出典:「高等学校公民科における科目構成及び新必履修科目「公共(仮称)」の方向性として考えられる構成(素案)」(文部科学省)

http://出典:「高等学校公民科における科目構成及https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/071/siryo/attach/1371199.htm

 (2020年12月4日に利用)

 

 「協働的な考察」や「合意形成」といった言葉が象徴するのは、やはり社会や他者との関わりだ。政治や経済など、社会の仕組みに関する基礎的な知識を学んだ上で、その仕組みにどうやって自分なりに参加できるかを考える授業のようだ。

模擬選挙や模擬裁判など、実際の場面を想定した取り組みのほか、現代の社会問題解決に向けて、事実を基にした論拠と共に自分自身の考えを説明・論述する時間が設けられるという。授業とはいえ、日常的に社会問題について議論する習慣がないと、「自分の意見を言うのは恥ずかしい」と感じる生徒もいるだろう。教師も含めて、それぞれの意見を否定せず尊重し合うことが求められそうだ。

思い返すと、筆者はテストで良い点数をとることだけを目的に、その場しのぎの勉強をしていた。学校で習ったことが自分の生活や社会と地続きであることを実感できていれば、より主体的に学ぶ姿勢が身についていたかもしれない。

 

「学校」を卒業したその先は?

教育を変え、社会を変える。誰もが通る道だからこそ、その在り方が社会の在り方に大きな変化をもたらすはずだ。

本記事では、学校教育における新科目の導入をきっかけに、新しい教育のカタチである「シティズンシップ教育」について紹介した。

20代の筆者が学校へ通っていた時と比べ、教育のあり方は変化している。最近は、至る所で「生涯教育」という言葉を目にする。「社会人になったら勉強する時間なんてない」なんて言われているけれど、義務教育を終えた後も学び続ける姿勢が求められているのかもしれない。

教育現場では、確実に変化が起こりはじめている。では、義務教育を卒業した私たちはどうすればよいのだろう。社会に出た私たちは、どのようにして学びの場をつくることができるのだろうか。

次回の記事では、社会に出た後も学び続ける人達のための「大学」を紹介する。

 

(文:柴崎真直、編集:中山明子)

 

 

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