「BIGLOBE Style」は、社会を前進させる人や事例を発信しています。今回は、ライターの伊藤壮哉さんが、インドにおける女性の活躍を映画の側面からご紹介します。
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インドが抱える女性蔑視と格差
2020年のインドと言えば、新型コロナウィルスの感染者数が多い国という印象だろうか。実際に2020年12月現在、感染者数は、アメリカに次ぐ世界2番目で、コロナの影響を大きく受けた国の一つである。インドの一大産業である映画産業は、長引くコロナの影響から、撮影の中止や映画館の休館と、大きな打撃を受けている。
今やコロナのイメージが強いインドかもしれないが、以前からカレーやヨガ、ボリウッドのイメージと共によく言われているのは、危険な国、というイメージである。特に女性に対する暴行事件に代表されるような、女性蔑視による事件が数多く存在する。筆者自身、実際にそのような被害にあったとインド在住の知人女性から話を聞いたこともある。そんなインドにおける男女間の差は大きく、世界経済フォーラムによる2020年版の世界男女格差指数ランキングでは、インドは153カ国中112位。同じ南アジアのバングラデシュ(50位)、ネパール(101位)、スリランカ(102位)より低い。しかし、そんな現状を打破すべく、近年インドでは女性のエンパワーメントを推進する動きが起きている。中でもボリウッド※のリーダー的女性による活躍は際立っている。
※インド・ムンバイの映画産業を総称した呼称
男性社会だったボリウッドにおける女性の躍進
今も昔も、ボリウッドと言えば、男性俳優の存在が圧倒的だ。日本でも話題になった『きっと、うまくいく』の主演俳優アーミル・カーンを始め、スーパースター俳優3人共通の名字から「3大カーン」と呼ばれ、彼らが主演をつとめる作品が年間興行収入の上位を独占していた。一方で、ボリウッドの女優といえば、そんなスター俳優たちの相手役として、艶やかな衣装を身に纏い、派手なダンスを踊っているイメージが強かったかもしれない。
しかし、昨今は女優の活躍もめざましく、女性主人公を題材とする作品が増えている。ハリウッドでも活躍し、アメリカの人気ミュージシャンとの結婚も話題となった女優プリヤンカー・チョプラはその代表例だ。彼女が主演した2014年の映画『Mary Kon』は、同名のインド人ボクサーのメアリー・コムが、女性蔑視が色濃く残るインド社会で、女性ボクサーとして活躍する伝記映画だ。同作はインドの数々の映画賞で作品賞や主演女優賞を受賞し、興行的にも成功を納めた。それに続くように、モデルとしても活躍する女優のソナム・カプールが主演した2016年の映画『Neerja』では、ハイジャック犯と戦った女性キャビン・アテンダントの話を描く。また、2018年の映画『Raazi』では、若手人気女優のアーリア・バットがパキスタン軍幹部の息子に嫁ぐ女性スパイ役を演じた。これら3作品全て、実在の女性の話を基にした映画化であり、いずれも彼女らの演技が高く評価され、興行的にも大成功を納めている。
ボリウッドが向き合う女性蔑視と格差是正
更に、ボリウッド業界では、女優の活躍に留まらず、女性蔑視問題としっかりと向き合った作品も作られるようになってきた。2016年の映画『PINK』では、暴行されそうになった女性が正当防衛で相手の男性を傷つけてしまった事から、逆に訴えられるという法廷ドラマが成功を収めた。さらにNETFLIXオリジナルのドラマシリーズ「デリー凶悪事件(原題は”Delhi Crime”)」では、2012年にデリーで実際に起きた集団暴行事件を女性警官の視点から描いている。
そして、日本でも公開され話題となった『パッドマン 5億人の女性を救った男』では、衛生的な生理用ナプキンを簡単に作れる機械を発明した実在の男性の話を描いた。その「パッドマン」が発明した機械を使って自ら生理用ナプキンを製造し、それを販売し自立する女性たちの姿を描いた『ピリオド -羽ばたく女性たち-』は、今もインドの農村部が抱える、生理への偏見の問題を描いている。同作は、2019年、第91回アカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門でオスカーを受賞している。
ボリウッドをリードする女性の活躍は、映画の中だけに留まらない。メアリー・コンを演じたプリヤンカー・チョプラや『トリプルX』でハリウッドデビューも飾ったディーピカ・パーデュコーンは、フェミニズムに関する自身の考えを積極的に発言している。更に、それぞれ自らNPOを設立し、様々な社会問題への取組みに積極的である。
『ピリオド -羽ばたく女性たち-』のプロデューサーの1人である、グニート・モンガもそのような女性の一人だ。インド人映画プロデューサーとして初めて米アカデミーのメンバーとなった1人であり、日本でもヒットした『めぐり逢わせのお弁当』のプロデューサーでもある。新型コロナがまだそこまで深刻ではなかった2020年の頭、アジアの貧困地域の優秀な女性の社会進出を推進する教育プログラム、アジア女性大学のチャリティイベントに参加するため来日する等、女性のエンパワーメントに積極的である。
前述の通り、ボリウッドで女性リーダーが活躍している一方で、インドでは、女性蔑視や格差の問題をはじめ、解決されるべき社会問題は山積みとなっている。しかし、インドでは幾多の問題を政府や大企業に任せるだけではなく、前述の彼女らを筆頭に、業界のリーダーたちが出演・製作する映像作品や自らの行動によって、SDGs達成への糸口を示している。そして、それに観客が共鳴し、作品の評価や興行での成功という形で、彼女らの活動を支援する人たちが沢山いるのも事実だ。
映画大国インドでは、その映画産業の中心であるボリウッドが、女性の社会進出をはじめとしたSDGs達成のロールモデルとなっている。SDGs達成に向けた一つのモデルケースとしても、映画産業の社会における存在意義の一つとしても、注目すべき事例だと筆者は強く感じている。
(文:伊藤壮哉、編集:中井圭)