動物と人間の共生とは?南アフリカ唯一の日本人女性サファリガイド、太田ゆかさんに聞く

「BIGLOBE Style」では、「SDGs」に関する社内外の様々な事例やトピックスもご紹介していきます。今回は、ライターのおのれいさんが、「バーチャルサファリ」について南アフリカ在住のサファリガイド太田ゆかさんにお話を伺いました。

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あなたは「バーチャルサファリ」をご存知だろうか。
南アフリカの広大なサバンナをサファリカーで走り抜け、動物たちの足跡やフンの臭い、習性を手がかりに野生動物を探す。そんな彼らとの出会いをオンラインで体験できるツアーだ。

筆者が「バーチャルサファリ」を初体験した時の記憶は強烈だ。長い髪の毛を1つにまとめサファリハットを被った女性がガタガタの道をサファリカーで走らせ、急に止まったかと思うと数十メートル離れたところにある何かを手にとって戻ってきた。「これがゾウさんのウンチです、そんなに古く無いので近くにいるはずです。探しに行きましょう!」と、素手でゾウのフンを掴んでいた。多少ショッキングな映像のはずが、その様はあまりにも自然だった。

彼女の名前は、太田ゆかさん。南アフリカ政府公認の唯一の日本人女性サファリガイドだ。
新型コロナウイルスの影響を受け、苦しい状況が続いている観光業。今回はその一端として打撃を受けているサファリガイドの現状と、人間と動物の共生についてお話を伺った。

 

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太田ゆかさん

プロフィール
南アフリカ在住日本人サファリガイド。初アフリカは2014年に訪れたボツワナ。これをきっかけに幼い頃からの夢である野生動物保護を実現するために、アフリカへの移住を決意。サファリガイドになるために南アフリカで訓練学校に入学。これまでクルーガー国立公園エリアで環境保護プロジェクトの専属サファリガイドとして活動。サバンナの魅力と現状を日本に広めるべく、現地情報・写真をインスタグラムなどSNSから発信中。

 

コロナウイルスの猛威と新しいサファリの形

ーサファリガイドはどのようなお仕事なのでしょうか。
メインは「人と自然をつなぐこと」だと思っています。その為にまず、アフリカの自然を体験しにきてくれる人たちをサバンナでガイドします。
ガイドでは野生動物を探し見つけて、その生態について紹介します。そうすることで生態系や自然界の中の動物同士の絶妙なバランスなど、自然の尊さを理解してもらい、環境保護に興味を持ってもらえるように努めています。

私はそのメインの仕事以外にも、野生動物保護活動や密猟対策の活動にも携ってきました。コロナ以前はボランティアを連れて罠の除去やサイの安全確認をしていました。現在も罠に引っかかってしまったりして、レスキューが必要な動物が発見されると、私たちも捜索のお手伝いや治療の補助などをしています。

 

ー多岐にわたるお仕事ですが、サファリガイドになるためにはどのようなステップが必要なのでしょうか。
南部アフリカでは、現地の訓練を受け、試験を通過してサファリガイド資格を取得する必要があります。ほとんどの場合が、サファリガイド訓練学校での研修を通じて、必要な資格を集めていく形です。私もその訓練学校の一年間コースに通いました。


ー新型コロナウイルスがサファリツアーへ与えた影響について教えてください。
南アフリカでは、2020年3月にロックダウンが始まり、その期間は7ヶ月間にも及びました。観光業にとって何よりも苦しいことは「人がいない」ことです。外国からの観光客が主なサファリ参加者だったのですが、ヨーロッパには流行第二波・第三波が絶えず押し寄せていることもあり、コロナ以前のように人が戻ってくるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。

南アフリカ人に対しては、国から補償金が支給されましたが、外国人である私には支援はありません。この期間は貯金を切り崩しながら凌いできました。


ー対面でのサファリツアーが不可能になってしまい、収入源も絶たれてしまった。次なる一手として始めたのが「バーチャルサファリ」だと聞きました。
はい、そうです。世界的に色々なものをオンラインにせざるを得ない状況になったと思うのですが、「それならばサファリもオンラインでできるはずだ」と思い至り始めました。日本と南アフリカをオンラインで繋ぐことで、自然と繋がる・環境問題や南アフリカに生きる動物を知るきかっけにしてほしいという思いのもとに不定期で開催しています。

ツアーは、毎回15組〜を対象に2時間行っています。もちろんリアルタイムで南アフリカと日本を繋ぎます。ツアー中はチャット機能を使用して、参加者のみなさんからの質問に答えながら進めます。
雨季に入り開催を見合わせていましたが、2月から再開しています。

 

▼バーチャルサファリ(YUKA ON SAFARI)

https://yukaonsafari.com/バーチャルサファリ/

 
 
 
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ーツアー参加者はどんな方が多いですか?
30〜40代の女性が多い印象です。お子さんと一緒に見てくださっている方もいるようです。南アフリカって、日本からしたら距離ももちろんですが、なんとなく”遠い異国”という印象が強いですよね。そんな国に暮らす野生動物の姿をオンラインで覗き見してもらうことで、そういった距離も縮められたら嬉しいなと思っています。コロナは憎いですが、この新しいサファリの広がりはコロナのおかげとも考えています。


ーオンラインでの新規ビジネスというと、バーチャルサファリの他に「クラウドファンディング」もされていましたね。
はい、「サイを密猟から守りたい」という思いで、サファリガイドになってから初めてクラウドファンディングを行いました。
アフリカでは、サイの角を狙った密猟が後を絶ちません。角は、主にアジア圏を中心に高値で取引されています。伝統工芸品や妙薬の材料として市場に出回っているのですが、そのために毎日2頭ものサイが密猟によって命を落としています。特にクロサイはここ数十年の間に絶滅危惧種にも指定される程に頭数が減ってしまいました。

 

 ▼南アフリカにおけるサイの密猟数(シロサイ・クロサイを含めたアフリカサイを対象とする) 

 

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(出典:Save The Rhino International/https://www.savetherhino.org/rhino-info/poaching-stats/

 

その救済措置として、獣医師と協力してサイの角を削る試みを続けています。狩る角をなくして密猟のしようがない状況を作り出す為です。サイにとっては「角を人間に削られるなんて、たまったものじゃない」と思うかもしれませんね。しかし、密猟から命を守る施策として試してきた中では、この方法が一番効果が高かったのです。これまでに、角の色を染めたり、角にマイクロチップを埋め込んで密猟者の足取りを特定しようとしたり試みました。

今回のクラウドファンディングでは、1頭分の処置費用110万円を目標金額としていましが、多くの支援のおかげで無事に目標を達成し、なんと220万円を達成しました。これによって、2頭のサイに処置ができることが決まりました。処置は3月を予定しています。支援くださった方には、実際に処置の模様をライブ配信で見ていただく予定です(※)。

※支援金が1万円以上の方に限る

 

ーサイの角を削る様子をライブ配信で見れる機会は滅多にないですよね。動物園でもよく見かけるサイがそんな危機に瀕していることは、日本ではなかなか語られていない気がします。

私も、日本で暮らしていた時は「クロサイが絶滅危惧種である」だとか「密猟の問題がいかに深刻か」は知りませんでした。南アフリカに来たからこそ知れたことをこのような形で発信できるのは嬉しいです。

 

▼CAMPFIRE「アフリカのサイに絶滅の危機が...日本のみんなと野生のサイを密猟から守りたい!」

camp-fire.jp

 

保護か過保護か、葛藤の日々

ーサファリガイドをされていると、さまざまな動物の自然の姿を目にすると思います。その姿を守ることを使命に活動されていると思いますが、自分の活動が保護なのか・過保護なのか悩まれることはありますか。
毎日悩み、仲間と協議しながら活動しています。
私自身の線引きは、人間の都合で問題が発生した場合、解決のために介入することは「保護」。例えば流行病など、自然発生の問題に直面している動物を救うことは「過保護」だと思っています。
現地のサファリレンジャー・ガイド・専門家の間でも意見が分かれることが常で、どうすることが正しいのか、数十年後の生態系を守るためにはどうすることが正しいのか、日々葛藤しながら活動しています。

 

ー「過保護」のリスクについて、具体的はエピソードがあれば教えてください。
あくまでも私が思う一例ですが、ケニアにとても有名な雄ライオンがいました。昨年末に亡くなったのですが、彼は16年もライオンの群れの頂点にいて、彼を目当てに観光客が多くケニアを訪れていました。ケニア政府は、大きな収入源となる彼を守ろうと、病気になるたびに獣医を派遣してしまっていたのです。
本来のライオンコミュニティであれば、弱った雄ライオンは群れから追い出され、若い雄ライオンが王となります。しかし、その有名なライオンは人間の治療のおかげで16年間も王で居続けました。本来であれば、オスが定期的に入れ替わることにより自然と強い遺伝子が残り、遺伝子の多様性も保たれているのですが、人間が介入しすぎることにより、その自然の秩序が崩されてしまい、長期的には近親交配につながってしまう可能性もあります。

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ー観光客がいなければサファリガイドやレンジャーの活動資金が集まらないし、活動資金がなければ動物や自然を守ることもできない。観光業と自然保護活動のバランスは難しいですね。
はい。もう一つの例は、私が所属している南アフリカのクルーガー国立公園での出来事です。1960年代に南アフリカが大干ばつに襲われ、次々と動物たちが命を落としてしまっていた時、人間によって水場が作られました。1949年には10箇所ほどしかなかった人工の水場は、1991年までに300箇所以上に増えたのです。そのことで、動物たちは命を繋ぎ止めたのですが、50年がたった今、ゾウの増えすぎが問題になっています。その急増傾向は1960年代から始まっています。ゾウは草食動物なので彼らの急増が植生に与える影響はとても大きいのです。国立公園内の植生の減少や、それに伴って特定の木にしか巣を作らない鳥が生息地を失い、絶滅の危機に晒されるなど、さまざまな問題が併発しています。
もちろんこれらの原因が全てゾウにあるというわけではありません。ただし、数ある原因のひとつになっていることは確かで、その急増を後押してしまったのは人間である、という事実は認めざるを得ません。

今行っている活動が、数十年後の自然のダイナミクスに影響を与える可能性がある。保護と過保護の判断基準は難しくて正解の形が決まっているわけではないので、自然の摂理に影響を及ぼさない形を仲間と議論しながら決定しています。

 

 
 
 
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動物と人間の共生は可能なのか

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ー太田さんが考える動物と人間の共生の理想形はどんなものでしょうか。
一言で表現するのは難しいですが、そもそも”人間も地球にくらす生態系の中の一部である”ということを思い出して、人間も動物もその生態系の中での役割を果たす関係が大事で理想的だと思っています。
南アフリカでサファリガイドをしていると、そこらじゅうに旧石器時代の人間の生息跡があります。本来ならば博物館にあるべきものなのですが(笑)、そういう跡地を見つける度に「人間はもともと自然の一部として生活していたのだな」と実感します。もともとは生態系の一部として生きていたのに、途中で産業化が進んでしまった。その結果、人間は生態系の一部としての感覚を忘れてしまったのではないでしょうか。


ー人間と動物の関わり方は時代によって変化してきました。日本では、動物はもともと人間の「仕事仲間」でしたよね。畑を耕したり、農具を運んだりするのに動物の力を借りていた。それが後に食料となり、毛皮やレザー・象牙商品などをはじめとする産業物となった。サバンナで生活していて、動物と人間が共生していた頃の動物の習性を目の当たりにしたことはありますか。
「英名:Honey Guide(和名:ノドグロミツオシエ)」という鳥がサバンナに生息しています。名前の通り「蜂の巣をガイドする鳥」なのですが、過去、動物と人間がサバンナで共生していた時代に、彼らは人間の前を歩き、蜂の巣があるところまで導き、人間に巣を取ってもらうことで蜂蜜を得ていたそうです。1000年以上も前から続く動物と人間の共同作業といわれていたのですが、サバンナで蜂蜜をとる人間が減ってきたことが原因で、鳥もその本能を忘れてしまっていました。なので彼らを説明する時には「かつては”Honey Guide”と言われていたが」という前置きが常でした。
それが、つい数週間前私が勤めている保護区でその鳥が人間を蜂の巣まで誘導したことがあったのです。忘れられたと思われていた、動物がもつ「人間との共生本能」がまだ残っている、ということに感動しました。まさに動物と人間の共生の形を目の当たりにした経験でした。

 

ー人間の保護・保護区がなくても動物が生きていけることが、太田さんにとっての最終ゴールなのでしょうか?
理想はそうですね。保護する為の柵がなくても動物が暮らしていける形が望ましいです。でも現実的にそれは難しいのだと思います。「密猟が無くなれば動物の生活が守られる」というわけではありません。
サバンナが直面している一番の問題は、動物の生息地が少なくなっていることです。その原因は複数あるのですが、人口増加によるインフラ整備も大きな原因にひとつです。人間が利用するための交通の便が発達すればするほど、動物の生息地は削られる。車の台数が増えれば、動物の衝突事故の件数も増える、というように問題は山積みです。
また産業目的の密猟の他に、現地の人が貧困を理由に食料として動物を密猟することもあります。
地球温暖化・貧困問題・人口増加などの、複合的な問題が解決されないと、人間による動物保護が不要になる日は来ないと思っています。

 

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さいごに
ー日本にいながら、動物と人間との共生を考えるのには何が大事だと思いますか。
日本は都会です。都会にいながら動物との共生を考えることは難しいと思いますが、まずは”自然とつながる”ことを意識してほしいです。動物も人間も、同じ地球に暮らす生態系の一部です。
「自然があるからこそ自分たち人間が生きられる」と思えるようになることが第一歩だと思います。
”人間としての昔の感覚(生態系の一部として生活していた頃の感覚)を取り戻す”とも言えるかも知れないですね。
その方法は大袈裟である必要はありません。例えば、1週間のうち肉を食べる日を1日だけ減らす、などほんの少しのことでいいと思います。ちょっとずつでも、まず自分の生活の中で何ができるか考えることからはじめてほしいです。


太田ゆかさんYoutubeチャンネル:YUKA ON SAFARI

www.youtube.com

 

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2020年7月1日から、日本でもプラスチック製買い物袋が有料化された。経産省のホームページを見ると、この有料化の目的は「普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとする」ことだという。確かに、友人と会っていても「どんなマイバック持ってる?」だとか「あー今日マイバック忘れちゃった」だとかいう会話が増え、「最近の出来事」や「恋愛のこと」と同じように「環境保護」や「SDGs」がトピックスとして存在するようになった。
何であれ、「知る」ことが「日常を顧みるきっかけ」になる。

南アフリカは確かに遠い。しかしその異国で日々頭を悩ませながら動物と人間の共生と向き合っているサファリガイド「太田ゆかさん」との出会いは、その距離を一瞬で飛び越え、覗き見する機会になることは間違いない。
あなたは、どういう方法で”生態系の一部としての人間に戻る”ことができるのだろうか。

 

(文:おのれい、編集:中山明子)

 

 ※記載している製品名およびサービス名は、各社の商標または登録商標です。

 

<BIGLOBE社員の編集後記>

新型コロナウイルス感染拡大でなかなか出かけにくい状況が続いていますが、美しい写真の数々にときめきを感じました。ぜひ、バーチャルサファリを体験をしてみたいです。
太田さんへのインタビューより「自然とつながることを意識してほしい」「動物も人間も、同じ地球に暮らす生態系の一部です」と聞いて、私たち人間は自然をうやまい、恵みをいただき、自然とともに生きてきたんだと改めて思いました。持続可能な社会のために、日常の買い物を工夫したり、私たちにできることは身近にあふれていています。小さなことからコツコツと取り組んでいきたいですね。

 

 

style.biglobe.co.jp