移住でもない、観光でもない、関係人口という関わり方

「BIGLOBE Style」では、「SDGs」に関する社内外の様々な事例やトピックスもご紹介していきます。今回は、ライターの藤木美沙さんが、「関係人口」について執筆しています。

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地元は消滅可能性都市だった

「豊島区ですら消滅可能性都市らしい。」
広島県のとある市から上京して、Twitterでこんな情報を見かけたのは大学2年生の時だった。
「消滅可能性都市(※)」という言葉は衝撃的で、一体何を意味しているのか想像もつかなかった。

(※)<引用>2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が 5 割以下に減少する市区町村</引用>
出典:日本創成会議
http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_1.pdf


「消滅可能性都市」は、市町村ごとの「未来の人口」の推計によって定義されている。地方を中心に人口減少が社会課題として浮き彫りになる中で、人口の再生産を中心的に担う若年層の女性率を指標として取り上げたものだ。

私の地元は、どうなんだろう。私自身も東京の大学に進学したが、地元に戻って働く将来は想像できない。同世代の女性の半数以上が地元を離れることは想像に難くない。そしてやはり、私の地元も「消滅可能性都市」のリストに掲載されていた。

幼少期を過ごした街が衰退していく様子を目の当たりにすることは言われようのない寂しさがある。
しかし、実は私の地元がある瀬戸内地域には地方創生の観点から注目されている試みがあることが分かった。そのうちの一つが瀬戸内国際芸術祭だ。


瀬戸内国際芸術祭とは
瀬戸内にある10以上の島などを舞台にアート作品の展示やイベントが実施されるこの芸術祭は2010年から3年に1度開催されている。

開催を重ねるごとに来場者数を増やし、2019年は来場者117万8千人、経済波及効果は180億円にものぼる。
芸術祭をきっかけに移住者も増加しており、男木島は、芸術祭をきっかけに子どもを持つ移住者が増えたことで、保育所や小学校の再開に至ったという。

私も、2016年に直島を訪れたことがある。島の景観と共存する形のアート作品は圧巻で、そこに流れる穏やかな時間は心地よく、地元近くにこれほど素敵な環境があることに感動した。


でも、18年間過ごした町のすぐ近くにある場所だというのに、ここに「住む」という選択はできないと思った。しかしこの滞在があくまでも「観光」である、という事実に多少の後ろめたさを感じていた。

 

こえび隊について
そんな折に見つけたのが「こえび隊」というボランティアサポーターの存在だった。瀬戸内国際芸術祭は香川県、企業やアーティストと言った多様な関係者から成り立っている。その「つなぎ役」として発足した組織がこえび隊。
NPO法人 瀬戸内こえびネットワークが運営しており、その活動内容は作品制作の手伝いや、芸術祭のPR活動、芸術祭期間中の運営、各島での催しの手伝いなどさまざまだ。
作品メンテナンスでは作品を磨いたり、来場者の案内番を行なったり、イベントがある際はワークショップやコンサートの会場づくり・誘導・受付・片付けを行なったり、島にあるレストランやカフェの手伝いまでも行うという。

 
こえび隊には、国内各地はもちろん、海外からも参加者が集っている。

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※海外・国内のこえび隊参加者の出身地分布
出典:こえび隊 HP
https://www.koebi.jp/about/

また、活動への関わり方が柔軟なのも特徴だ。1回の参加に1時間だけ、親子で週に1度だけ、遠方から3日間だけ、というように、各人の事情にあわせて参加できる。では、単なる観光や、一度限りのボランティア活動との違いはどこにあるのだろうか?

<引用>私たちにとっては非日常ですが、地元の人にとっては日常の生活であって、そこに自分が入って役割を見つけていくのはおもしろい体験だと思います。</引用>
出典:ネットTAM
https://www.nettam.jp/kaizen-file/1/

こえび隊事務局(当時)の甘利氏がインタビューで語ったこの言葉。これこそが「観光以上」の体験になる要素ではないだろうか。
芸術祭に赴くことは自身にとって「ハレ」の時間である。観光だけではそれだけで終わってしまうかもしれない。しかしそこで暮らす地元の方と関わり、自身にとっての「ハレ」の時間が「ケ」の時間に近くなることで、「観光以上移住未満」の不思議な時間を体験できる。また、そこでの活動が地域をつくっていく。

こういった関わり方を定義づける「関係人口」という概念がある。

 

移住でもない、観光でもない 関係人口という関わり方

<引用>「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。

地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。<引用/>
出典:総務省 関係人口ポータルサイト
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/

 
総務省で平成30年度から「『関係人口』創出事業」が開始された。冒頭に触れたように地方創生が急務となる中で、その地域に住んでいなくとも地域づくりの一端を担うと定義している。

こえび隊もそのうちの一つとされており、芸術祭のボランティア活動を通して地域づくりに関わっているというわけだ。

他にも、以下のようなモデル事業が採択されている。こえび隊のようにボランティア活動で完結するものもあれば、副業という形で地域の課題解決を行うものもある。

 

<引用>オンラインサロン・副業を通じて継続的な関係人口プラットフォームを構築し、地域外のプロフェッショナル人材と市内のシビックイノベーターが協働で地域の課題解決に取り組む。
2016年から実施しているMICHIKARA地方創生リーダーシッププログラムのノウハウやスキームを活用し、全国に横展開可能な事業を目指す。(長野県塩尻市)

低山トラベラーを対象に、東京での連続講座と熊野でのフィールドワークを開催。地域住民と関わりながら、その暮らしや熊野の文化と深く関わる「林業・狩猟・農業」の体験を通して地域課題を理解し、解決に取り組むプログラムを構築する。(和歌山県田辺市)</引用>
出典:総務省 関係人口ポータルサイト
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/

 
私の地元が消滅可能性都市になっていたことは悲しかったと同時に、Uターンを決意できない自分がもどかしかった。
しかし「移住」以外にも地域づくりを担う方法は増えてきている。「生まれた都市」「住んでいる都市」「関係人口として関わっている都市」と、いくつもの地域と関わることができる。まずは自分の興味が持てる地域を探してみるのもいいかもしれない。

次回の瀬戸内国際芸術祭は2022年開催。その頃には世の中が落ち着いていることを願い、次回開催期間中の帰省ではこえび隊での活動に応募してみようと思う。

 

(文:藤木美沙、編集:中山明子)

 

<BIGLOBE社員の編集後記>

藤木さんも感じたように、消滅可能性都市と聞くと衝撃的ですね。全自治体のほぼ半数にあたるそうです。藤木さんも東京の大学に進学したが、地元に戻って働く将来は想像できないとのこと。少子化対策や東京一極集中対策は簡単ではないだけに、出身地や魅力的な場所と「関係人口」として関われることに大きな可能性を感じます。

一方、コロナ禍でテレワークを実施し、会社に出勤しなくても仕事ができると感じた方もいらっしゃるかと思います。地方創生テレワーク推進(内閣府地方創生推進事務局)も注目されます。

 

 

 

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