BIGLOBEの「はたらく人」と「トガッた技術」

Apps Scriptを活用して業務部門とDXを育てる〜Google Workspace Summit 2023に登壇しました

BIGLOBEではGoogle Apps Scriptを活用して、エンジニア部門とビジネス部門が一緒になって業務改善に取り組んでいます。管理職向け研修など活性化の取り組みを、2023年3月23~24日に開催されたGoogle Workspace Summit 2023でご紹介しました。

きっかけになったのは、昨年10月に公開したTechBlogの記事でした。

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実は、昨年12月に開催されたGoogle Workspace Review 2022に登壇する予定だったのですが、発表の直前に新型コロナウイルスに感染していることが発覚。無念の欠場となりました。しかしGoogle Cloud様の粋な計らいで、より規模の大きな今回のイベントに登壇させていただくことになりました。ありがたすぎます...。

事前に何度も練習して万全の態勢でのぞみました。当日はたくさんの質問もいただき、とても良い経験になりました。Google Workspace Summit 2023のサイトでフォームに登録していただくと、動画をご覧いただけます。以下、発表の内容をご紹介いたします。

文房具だなの上にQRコードが置いてある?

BIGLOBEの高玉です。早速ですが、皆さんにクイズがあります。この写真は、私のオフィスの様子です。文房具棚の上にQRコードが置かれています。このQRコード、何に使うと思いますか?

文房具棚に足りない物品があるときに、社有のスマートフォンでQRコードを読み取ります。すると、皆様おなじみ、Googleフォームがスマホに表示されます。補充品の申請画面です。フォームで不足品をチェックして送信すれば、文房具の担当者に連絡がいく仕組みです。

QRコードを読んだら、Googleフォームが表示される、とても単純な仕組みです。社内でも、地味だけど便利だよね、と評判になったので、昨年、TechBlogの記事として公開しました。すると、社外からの反応も好評で、SNSでの話題性の指標となる「はてなブックマーク」では、テクノロジーカテゴリーでホットエントリー入り、ブックマーク数は85、我々のTechBlogで歴代3位になりました。そして、Google Cloudさんの目にも留まり、本日の登壇となりました。

気がついてみれば、何ということはないアイデアなのですが、実は、このアイデアを実現するまでには色々な試行錯誤がありました。本日は、このアイデアが生まれるまでの背景を中心に、Google Workspaceを使った業務改善の取り組みについて紹介していきます。

Google Workspaceは2017年に導入しました。ちょうどKDDIグループの一員となって、働き方を見直すタイミングでした。競合製品と比較しながら様々な検討を重ねましたが、決め手になったのはGmailとCalendarです。ちょうど社内のメールシステムをリプレースする必要があり、Gmailが第一の候補にあがりました。Gmailによってメールデータはクラウドに保存されるようになり、もしセキュリティインシデントによってPCをクリアインストールする必要が出た時も、スムーズに代替PCに乗り換えられるようになりました。また、Calendarを導入する前は、日程を調整するために平均で7往復ものメッセージをやり取りしていましたが、Calendarによって、調整の手間を一気に無くすことができ、とても助かっています。Web会議サービスのGoogle Meetとの相性の良さも抜群で、コロナ禍にあっても、社内コミュニケーションを継続することができました。

2021年からはChromebookを全社に導入しています。Windowsでないとできない業務は、Microsoft社のAzure Virtual Desktopにリモートデスクトップして解決しています。

「QR コードでフォーム表示」を導入するステップ

最初にご紹介した、QRコードを読むとフォームを表示する仕組みですが、Google Workspaceを導入されている企業さん、学校さんなら、すぐにお使いいただけます。ここに示す3ステップで導入できますので、ぜひご活用いただければと思います。

1. フォーム作成

  • 補充品を申請する Google フォームを作成

2. QRコード作成

  • Google スプレッドシートで フォームの URL を QR コードに変換
  • 念のため QR コードを印刷して、スマホで正しく読み取れるか検証

3. メールで通知

  • フォームの回答タブで、その他アイコン から「新しい回答についてメール通知を受け取る」を選択
  • ただし「新しい回答があります」とだけ表示される

ここにApps Scriptを使うことで、より便利で効率的になります。

3'. Google Chatへ

  • Apps Script で Google Chat に通知も可能
  • 工夫すれば申請内容+所属も一緒に通知できる

Googleフォームは、回答をメールで通知できるのですが、メールの文面はただ単に「新しい回答がある」ことしか書いてありません。Apps Scriptを使えば Google Chatにすぐに通知されますし、通知されるメッセージには、誰が何を補充してほしいのかも表示できます。

ここから先の話は、このApps Scriptがとても重要な役割を担います。少し詳しく説明していきます。

ローコード開発プラット フォーム Apps Script

Apps ScriptはプログラミングでGoogle Workspaceを自動化できるローコード開発プラットフォームです。プログラミング言語のJavaScriptを使い、Google Workspaceで扱うデータを操作するプログラムを作れます。

私は新人エンジニアの育成を担当しています。プログラミングも教えているのですが、プログラミング初心者にとってApps Scriptはとても優れた道具です。Apps Scriptがプログラミング初心者にとって優れているのは、次の4つの点です。

  1. 安全性。これが最も大切です。Googleアカウントを使った認証で、Google Workspaceのドメイン外への情報漏洩を防いでくれます。セキュリティ ガードレールの役目を果たし、ガードレールの中であればいくらでも試行錯誤することができます。

  2. 簡便さ。Webブラウザーだけあれば、Apps Script を使ったプログラミングを始められます。さらに、デバッグも、デプロイも、ブラウザーだけで完結します。プログラミング初心者がつまづく最初の壁は、自分のPCでプログラミングができるように開発環境を構築することですが、それを楽々と乗り越えることができます。

  3. 業務リソースの活用。オフィス業務で使う、スプレッドシート、スライド、ドキュメント、カレンダーといったデータだけでなく、Google Workspaceのドメイン内にいる人の情報を取得できるディレクトリーへのアクセスなど、様々なデータソースにアクセスできます。それらを組み合わせることで、業務を効率化することが可能です。プログラミング初心者は「せっかく学んだプログラミングを何に活かすか?」を見失いがちです。オフィスで働く人なら誰しもが「業務を効率化したい。面倒な手作業をなくしたい」と思われていることでしょう。業務効率化に使えるApps Scriptなら、プログラミングを活用する実戦の場がいつでも見つかります。

  4. 柔軟性、拡張性。Apps Scriptを使えばウェブアプリを作ることもできます。Google Workspaceのドメイン内で安全に公開できるのが特長です。工夫すればVue.jsなどのモダンなフロントエンド技術も使えます。新人エンジニア研修では、研修で学んだことの総まとめとして、本格的な社内システムをApps Scriptで作り、実業務で活用しています。

Apps Scriptを使った業務改善に新人と取り組んでみた結果...

プログラミングは、知識としてただ学ぶだけでなく、実践を通じて使いこなせるようになることがとても重要です。自転車の乗り方を座学で学んでも、乗りこなせるようにはなりません。分かる、を、できる、に変える必要があります。そこで、実践の場を作るため、社内のイントラブログで業務上の困りごと、自動化したいことを募集しました。ありがたいことに、すぐさま18個ものアイデアが集まったので、そのうちの3つについて新人と一緒にヒアリングに行き、Apps Scriptでプログラミングをしていきました。しかし、新人が作成したコードは、どれ一つとして実業務で使われることはありませんでした。

新人のプログラミング能力が未熟だった訳ではありません。それぞれ別の理由がありました。「試作品はできたが、設定が面倒で結局使われなかった」「自動化するには元の業務を変更しなければいけないが、変えたくなかった」。試作品を作る過程で、新人のプログラミング能力を向上させる目的は達成できたものの、せっかく作ったものが使われなかったのはとても残念でした。

そんな中、QRコードを使うアイデアが社内のあるコミュニティから持ち込まれました。Apps Scriptを業務で活用している人が集まるコミュニティです。ちょうどフリーアドレス制を導入したタイミングで、その日に座る座席をシステムに登録するために、座席に貼ったQRコードを読み取ってチェックインする仕組みです。

フリーアドレス制を推進しているスタッフ部門に座席チェックインのアイデアを持ち込んでみたところ、そのアイデアよりも、「社内の業務にQRコードが使える」ところのインパクトが強く、結果的に、冒頭に紹介した文房具補充にQRコードを使ってみよう、ということになりました。

失敗から学んだ 2 つの教訓

今度は失敗させないぞ!と、先の失敗から学んだ2つのことを心がけながら、検証を進めました。

1. 機能を絞ってとりあえずリリース

動くものを素早く作り、体験してもらうことを優先しました。当初は、文房具ごとにQRコードをたくさん発行し、それを連続で読み取らせるアイデアも出たのですが、実装するのは少し大変です。そこで「QRコードを読んだら、フォームを表示するだけ」にあえて機能を絞り込みました。

2. 要求者との会話のキャッチボールを大切に

コミュニケーションに気をつけて、真の要求を一緒に探しました。業務に詳しいスタッフ部門は、改善のアイデアもたくさん持っています。一方、エンジニアはそうしたアイデアを聞くと「実装できるか?できないか?」という観点で反射的に回答しがちです。その結果、実際の業務からかけ離れた使いづらい実装になってしまうこともあります。アイデアに対して「できる・できない」と回答する前に、「そもそも、どうしてその要望を叶えたいのか?」を引き出すよう、会話のキャッチボールを心掛けました。 こうしてできたのが、補充品の申請システムです。

ボトムアップによる現場 DX

実際に申請してみた人からは、「備品の担当者をわざわざ探す手間が省けた」「備品がすぐに補充されるようになった」「QRコードを読む体験が楽しい」といった声を頂いています。利用する上での一番のハードルは、社有スマホでQRコードを読み取るところなのですが、Googleレンズアプリを使えば解決できます。スタッフ部門からは「不足品の巡回が不要になった」「備品の使用頻度が記録されるので、文房具棚に入れておくべき「標準品」を工夫できるようになった」という嬉しい反応がありました。何より嬉しかったのは「アイデアが形となり、仕事が楽になる経験を通じて、仕事をするのが楽しくなった」という声です。

実は、TechBlogに対するSNSの反応でも、「いい話」「良いDX!」という好意的な評価を頂いています。このように好意的に受け入れられたのは、ボトムアップ型の現場 DX だったからなのでは?と考えています。

経済産業省のDXレポート2では、デジタル化をdigitization、digitalization、digital transformationの3つに分けて解説しています。

digitizationはアナログのデジタルデータ化。従来の補充依頼は、そもそもデジタルデータとして残らなかったり、チャット上にしか残っておらず、構造化されてませんでした。これが、Googleフォームを使って後々活用しやすい形で記録されるようになりました。QRコードも併用することで、フォームを検索する手間まで省いています。digitalizationはデジタルデータの活用です。補充依頼のデジタルデータから標準品を工夫できるようになったことに相当します。digital transformationは、ビジネスモデルの変革。もし、私たちがこの補充品の申請システムをSaaS化して外販すれば、新しいビジネスモデルを実現することになるのでDXに相当するでしょう。今回は、digitizationからdigitalizationへと進む、ボトムアップのアプローチでした。こうしたボトムアップを多く経験することで、ビジネスモデルを変革するアイデアも出やすくなるのでは、と期待しています。

経済産業省はDXを推進する企業の成熟度を測定するために、DX推進指標も発表しています。その中に、望ましいマインドセット、企業文化として「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか」という項目があります。Apps Scriptを使ってせっかく作った試作品が無駄になったこともありましたが、その失敗からの学びを活かしながら、間髪を入れずに次のチャレンジができたことは幸運でした。

冒頭で、Apps Scriptをプログラミング初心者に適した道具としてご紹介しましたが、試行錯誤を繰り返すボトムアップ型の現場 DX においても、Apps Scriptは優れた価値を発揮することが伝われば幸いです。

管理職向け Apps Script 研修から社内事例のご紹介

Apps Scriptを活用できる人が増えれば、現場 DX はますます加速します。そこで、Apps Script を学ぶ場として、管理職向けの研修も開始しました。狙いは、管理職クラスのリテラシーを向上することで、自身の業務を効率化できるようになること。さらにその経験を通じて、効率化の対象を組織全体に広げることです。広い視野を持つ管理職だからこそ期待は高まります。研修は、いわゆる反転学習のスタイルで開催します。事前に動画を使って基礎知識を学び、集合して実際に手を動かしてApps Scriptのプログラミングを体験します。動画教材には、株式会社ストリートスマート様のMaster Programを使っています。とても良くできているのでオススメです。ハンズオンの題材は、普段の仕事でも良く使うGoogle Chatに、メッセージを送るだけの簡単なプログラムです。題材は簡単ですが、APIの使い方からタイマーを使った定期実行まで、基本的なことを一通り体験できます。

また、Apps Scriptを使いこなすコツは、Apps Scriptでどんなデータを操作できるのか、その事例を数多く知ることです。

そこで、研修では社内の事例も紹介します。皆さんにも Apps Scriptでできることのイメージを膨らませていただきたく、ここからは社内事例を4つほど紹介していきます。

事例1: 議事録の日付を自動挿入

最初はとても地味な事例です。タイマー起動で、定例ミーティングの議事録ドキュメントに日付を追加します。これだけです。定例ミーティングの議事録は、新しい日付の分を上に書いています。もし下に追記してしまうと、最新情報を確認するために、一番下までスクロールをする必要が出てしまうからです。日付の追加ですが、会社が休みの日には追加しないように制御しています。Googleカレンダーに会社の休みが登録されているので、それを参照しています。

事例2: Google Chatのボットたち

次はGoogle Chatを使った事例です。Apps Scriptを使えばチャットボットを作ることができます。左は、ドル円の推移をグラフ化して通知してくれるボットです。右は、会話型のボットです。ミーティングでの発表順番を決めるときなどに、シャッフルボットを使います。話しかけると、順番をランダムに決めて、返信してくれます。

事例3: 社内ウェブアプリ

新人エンジニア研修で作った社内システムの事例です。どちらも、人事部がプロダクトオーナーになり、アジャイル開発で作りました。左は、感謝の気持ちをポイントとしておくりあうシステムです。右はスキル診断ツールです。どちらもVue.jsを使い、Single Page Applicationとして作っています。

事例4: AppSheetを活用しGmail上で承認

最後の事例は、ノーコード開発ツールAppSheetの活用です。AppSheetを使うと、Gmail上で操作できる社内システムを作れます。2月に記事を公開したところ、我々のTechBlog歴代2位のブックマーク数となり、世間からAppSheetが注目されていることを実感しました。

Apps Script で困った時、どう解決する?

最後に、Apps Scriptについて困った時にどうやって解決するか、社内に伝えていることをご紹介します。

1. 社内コミュニティに質問する。

まず、困ったら、社内コミュニティに相談するよう伝えています。 困った内容を検索エンジンで調べることも可能なのですが、初心者の場合、どんな検索ワードで調べれば良いかがわからなかったり、見つかった情報が古い場合もあり、むしろ課題の解決に時間がかかってしまうこともあります。ですので、困ったら社内で相談、としています。尋ねられた人は、Googleの公式ドキュメントを参照して回答することが多いです。

2. 一度は体系的に学ぶ

また、初心者の方へは、手当たり次第に検索エンジンで探すよりも、一度は体系的に学ぶことをオススメしています。動画で学びたい方には、先程もご紹介したMaster Programを、本で学びたい方には、高橋宣成さんが書かれた、詳解! Google Apps Script完全入門をオススメしています。最新は第3版ですのでご注意ください。一度、体系的に学んでおくと、検索の仕方も洗練されます。

業務部門とDXを育てる試み

この発表では、BIGLOBEがApps Scriptでボトムアップ型の現場DXを推進している様子をご紹介してきました。試行錯誤にぴったりの道具であるApps Scriptを活用し、失敗から学びつつ試行錯誤を続けています。その挑戦を支える社内コミュニティも重要です。こうしたボトムアップの取り組みで社員が digitization、digitalizationに慣れていくことで、ビジネス変革を起こす digital transformation を生み出しやすくなると期待しています。私たちの取り組みが、少しでも皆様のお役に立てば光栄です。

発表は、質疑応答含めて25分です。Google Workspace Summit 2023のサイトでフォームに登録すると録画、登壇資料、質疑応答の内容をご覧いただけます。業務改善はどの会社でも悩まれていることと思います。会社の壁を超えて、ぜひノウハウを共有していきたいですね!これからも情報を発信していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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