初めましての方は、初めまして!既にご存じの方は、おはようございます!こんにちは!こんばんは!
新入社員の大田原 和輝です!
業務としては、DNS ・ロードバランサー・ IPv4 over IPv6 ・ NAT64/DNS64 基盤の設計・構築・運用などを行っています。
BIGLOBEは、マンションISP事業者向けに「BIGLOBE IPv6 サービス(IPIP)」の提供を2024年1月17日より開始しました。
今回は、この「BIGLOBE IPv6サービス (IPIP)」に導入した「国内標準プロビジョニング方式」と1月に開催された JANOG53 で話した内容「これからの IPv4 over IPv6 の話をしよう」について紹介します。
- IPv4 over IPv6 がなぜ必要なのか
- IPv4 over IPv6 を使った通信のイメージ
- BIGLOBE IPv6サービス(IPIP)
- MAP-E と IPIP
- JANOGとは?
- まだ始まったばかりの国内標準プロビジョニング方式の導入
- 国内標準プロビジョニング方式の導入が進む世の中
- ビッグローブの国内標準プロビジョニング方式導入に対する検討内容
- おわりに
IPv4 over IPv6 がなぜ必要なのか
まずは、なぜ IPv4 over IPv6 が必要なのかについて、見ていきましょう!
IPアドレスには、IPv4 と IPv6 の2つの形式があります。
この IPv4 と IPv6 にはいくつかの違いがあります。
その1つとして IPv4 と IPv6 で利用可能なアドレスの数が違うということです。
IPv4は約43億個のアドレスを提供できますが、IPv6 は約340潤個のアドレスを提供できます。今のインターネットでは IPv4 が枯渇しているのが実態です。枯渇している理由については、こちらをご覧ください。
www.nic.ad.jp
出典:総務省ホームページ (https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ipv6/index.html )より抜粋
総務省では、電気通信の健全な発達に資することを目的に、国民の多くが次世代インターネットプロトコルによる利便性の高いサービスを享受することを可能とする IPv6 ネットワークへの速やかな移行を促進しております。
このように IPv4 が枯渇しているためインターネット環境は次第に IPv6 へと移行している傾向があります。
しかし、この移行が進む中で、IPv4 と IPv6 には互換性がないという問題があります。たとえば、家で IPv6 のみを利用している場合、IPv4 のみでサービスを提供しているwebサイトを閲覧することはできません。そこで役に立つのが「IPv4 over IPv6」という技術です。
他にも IPv4 と IPv6 の違いはありますが、興味がある方はご自身で調べてみてください!
IPv4 over IPv6 は、IPv6 のネットワーク上で IPv4 のパケット(データの塊)をやり取りするための方法を提供します。IPv6 ネットワーク(新しい道路)上で IPv4 のパケット(旧式の車)が移動できるような「通路」を作るイメージです。
この技術により、IPv6 と IPv4 の両方を使うネットワーク環境でも、通信がスムーズに行われるようになります。
IPv4 over IPv6 を使った通信のイメージ
さて、次は IPv4 over IPv6 を使った通信のイメージを紹介します。
まずは、用語解説です。
- CE(Customer Edge) ルータ: お客さま側に設置されたルータ
- PE(Provider Edge)ルータ: インターネットサービスを提供する会社側に設置されたルータ
- プロビジョニングサーバ:IPv4 over IPv6 通信に必要な設定情報をCEルータに展開するサーバ
通信の流れを説明します。
まず、CEルータは DNSサーバに対してプロビジョニングサーバのアドレスを要求します①。
そのアドレスを取得した CEルータは、次にプロビジョニングサーバから必要な情報を受け取ります②。
その後、IPv4 over IPv6 技術を利用して CEルータは IPv6 ネットワーク上で PEルータと データのやり取りをします③。
最後に PEルータ を経由してIPv4 コンテンツを閲覧をします④。
これが一連の通信の流れです。
BIGLOBE IPv6サービス(IPIP)
では、次にビッグローブがマンションISP事業者向けに提供した「BIGLOBE IPv6 サービス(IPIP)」について説明します。
ビッグローブでは、個人のお客さま向けに IPv6 オプション(MAP-E)を提供しています。
この MAP-E は、IPv4 over IPv6 技術の一つです。
IPv4 over IPv6 技術には、MAP-E や DS-Lite (ゲーム機ではありません)などがあります。
インターネットへの接続は、「ポート」という通信経路を通って行われます。これは、たとえばご自身が複数のアプリを同時に使いたいとき、それぞれのアプリが自分だけの「専用の通路」を持っているとイメージするとわかりやすいです。それぞれのアプリは通常1つ以上のポートを通信に使用します。一度に使えるアプリの数は、「使用可能なポート数」、つまり「専用の通路」の数で決まります。
ビッグローブが提供している IPv6 オプションは、一つの IPv4 アドレスを複数人で共有するため、使用可能なポート数がある程度制限されています。そのためマンションのように多くの利用者がいる場合は、ポート数が足りなくなるという問題が発生する可能性がありました。
この問題を解決するためにビッグローブでは、マンションISP事業者向けに BIGLOBE IPv6 サービス(IPIP) の提供を開始しました。この BIGLOBE IPv6 サービス(IPIP) は、IPIP という接続方式を利用しています。
MAP-E と IPIP
さて、ここまでに「MAP-E」と「IPIP」という接続方式が出てきました。ここでは、少しだけ「MAP-E」と「IPIP」について解説します。
「MAP-E」は、「Mapping of Address and Port using Encapsulation」の略で、IPv4 パケット(データの塊)を IPv6 パケット内に包みこんで、IPv6ネットワーク上で転送する技術のことです。つまり、この技術は IPv4 のデータを「包む」ことで IPv6 形式に見えるようにし、IPv6 のネットワーク上を移動します。
一方、「IPIP」は「IP-in-IP Tunneling」の略で、1つのIPパケット(データの塊)を別のIPパケット内に取り込むという操作を行います。具体的には、IPv4パケット全体をIPv6パケットのペイロード(データ部分)として取り込みます。つまり、「IPIP」は IPv4 のデータをある手法を使って IPv6 形式に見せることで、IPv6 のネットワーク上で通信を可能にします。
もっと詳しく知りたい方は、ご自身で調べてみてください。実は私も勉強している最中です!
JANOGとは?
まずは JANOG という組織について分かりやすく説明します。
https://style.biglobe.co.jp/entry/2020/11/11/130000 より抜粋
JANOG では、様々な事業者・企業・学術団体等、そしてエンジニアだけではなく企画や営業を担当される方等、多種多様なメンバが集まり、インターネットというインフラの運用がより良くなるよう日々議論を行っています。
いわゆる業界コミュニティの一つになるのですが、一種の業界団体と考えていただいた方がイメージしやすいかもしれません。
このように、多種多様なメンバが集まってインターネットをより良くしようと日々議論しているのが JANOG です。
JANOG では、参加者が一堂に集まり、最新のネットワーク技術や存在する問題、それらに対する最善の対策について議論をする JANOG Meeting が年に2回開催されます。
今回の JANOG Meeting は53回目で、福岡で1/17〜 1/19 までの3日間に渡って開催されました。
私は、 JANOG Meeting の最終日である 1/19 に「これからの IPv4 over IPv6 の話をしよう」というタイトルで登壇しました。
まだ始まったばかりの国内標準プロビジョニング方式の導入
さて、ようやく本題です。
ビッグローブでは、 BIGLOBE IPv6 サービス(IPIP) に「国内標準プロビジョニング方式」を導入しました。
1月に開催された JANOG53 では、この「国内標準プロビジョニング方式」について詳しく議論する機会をいただきました!
プロビジョニング方式とは、通信ネットワークなどの各種サービスやシステムをお客様に提供するための準備や設定をどのように行うかという手法や方式のことです。
プロビジョニング方式は現在、VNE事業者独自の方式で提供されているところもあります。
VNE事業者とは、インターネットサービスプロバイダ(ISP)事業者に対してインターネットのサービス提供に必要となるネットワーク設備などを提供する事業者のことです。
ビッグローブもVNE事業者です。
このVNE事業者ごとに異なる規格を統一するために「IPv6 普及・高度化推進協議会」が「国内標準プロビジョニング方式」を考案しました。
「国内標準プロビジョニング方式」についての詳細はこちらをご覧ください。
github.com
インターネットを利用するだけの視点だと正直、「プロビジョニング方式が独自だろうと、別に影響はないんじゃないの?」と思うかも知れません。
確かに今のところ、直接的な影響は少ないかもしれません。しかし、通信環境やサービスが進化し続ける中で、いつどのような形で変化が起こるか分かりません。そのため、将来的にはインターネット利用者にも影響が出る可能性があります。
一方、ISP事業者や、ルータ製造会社にとっては、プロビジョニング方式の違いが重要な課題となることがあります。
国内標準プロビジョニング方式が普及しないと・・・
ISP ごとに独自のプロビジョニング方式が存在するため、ルータ製造会社はそれぞれに対応できる新しい機能の開発が必要となります。この作業には、時間と労力がかかります。
一方、 ISP 側にとっては、独自システムの仕様を詳細に検討し、設計する作業が必要です。これもまた、時間と労力が増える一因となります。
これらの作業にかかる時間と労力が増えることで、ルーターの販売価格が上昇する可能性があります。そのため結果的にお客様の負担が増えるかもしれません。
これらの問題を解決するため誕生したのが「国内標準プロビジョニング方式」です。
国内標準プロビジョニング方式の導入が進む世の中
現状では、国内標準プロビジョニング方式がまだ十分に普及していないため、ネットワーク機器全体の価格が高くなる傾向が見られるかもしれません。では、この方式が広く普及した場合、何が変わるのでしょうか?
国内標準プロビジョニング方式が普及すると・・・
ルータ製造業者にとっては、IPv4 over IPv6 対応機器の開発に国内標準プロビジョニング方式を採用することで、計画や開発にかかる時間と労力を減らすことができます。
同様に ISP では、独自規格の検討や設計にかかる時間と労力が削減できます。
お客さまにとっては、企業の作業効率化により、コストが抑えられるため、手頃な価格のルータの選択肢が増えます。また、ルータの設定にかかる手間も最小限に抑えられます。
このようにISP、ネットワークベンダ、そしてお客さまの3者にメリットがあります!
こういったメリットがあるためビッグローブでは、BIGLOBE IPv6 サービス(IPIP) に国内標準プロビジョニング方式を導入しました。
ビッグローブの国内標準プロビジョニング方式導入に対する検討内容
ビッグローブで国内標準プロビジョニング方式を導入するにあたっていくつか検討するべき項目がありました。
参考に2点ご紹介します。
- IPv6マイグレーション技術の国内標準プロビジョニング方式 【第1.1版】にある実装の要求度(MUST,SHOULD, MAY)をビッグローブとしてどう考えて実装するか
- お客さま側に設置されたルータ(CEルータ)から送られるID,パスワードの認証基盤をどのように実装するか
詳細については、 JANOG53 の web サイトに公開されている資料をご覧いただくようお願いします。
分かりづらいので簡単に概要を説明します。
まず1. については、ビッグローブでは「IPv6 マイグレーション技術の国内標準プロビジョニング方式 【第1.1版】」で示されている実装の要求度(特にSHOULD,MAY)を考慮し、ビッグローブの品質要件を達成するための自社システムの構築方法について検討を行いました。
ビッグローブの品質要件として、CEルータからプロビジョニングサーバへ一斉アクセスが発生した際や、震災などによる電源断が起こった場合の、プロビジョニングサーバとの通信状態やデータの扱いについて検討しました。
次に2.については、CEルータから大量のアクセスが認証基盤に対して負荷を生じさせ、接続不能になるリスクを回避するための対策を検討しました。
おわりに
実は、 JANOG53 の開催日初日の2024年1月17日に国内標準プロビジョニング方式の導入についてのプレスリリースを出しました。
さらに INTERNET Watch にも取り上げていただきました!!!
- プレスリリース
- INTERNET Watch
今回の JANOG での発表を通して、国内標準プロビジョニング方式を多くの方に知っていただき、普及にも貢献できました。
入社1年目から JANOG meeting での登壇という貴重な経験ができたことはもの凄くありがたいことだと思います。これからも国内標準プロビジョニング方式の普及活動やその他の業務でインターネットをより良くできるように貢献していきたいと思います。
以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!