特別寄稿「時代が変わる2020年」vol.2 西森路代氏(ライター)

イノベーティブな取り組みや人物を紹介するメディア「BIGLOBE Style」では、新型コロナウイルスの感染拡大によって激変する今を捉えるべく、「時代が変わる2020年」をテーマに各ジャンルのゲストによる特別寄稿を掲載します。

今回は、ライターの西森路代氏に、日本の深夜ドラマに起きているポジティブな変化について寄稿いただきました。


「時代が変わる2020年」vol.2 西森路代氏


「時代が変わる2020年」というテーマをもらって、変わりつつあるものとして、ドラマ、特に深夜ドラマが思い浮かんだ。

しかし、日本のドラマやテレビ全体に対して必ずしも良いイメージを持っていない人も多いのではないか。そのため、ネットフリックスなどの配信で自分の時間軸に合わせて海外作品を見るという行動様式に移っている人をよく見かけるし、そっちのほうが「新しい」と見られることは間違いない。ただ、玉石混交なテレビ番組を根気強く見ていると、日本のドラマ、特に深夜ドラマは変わりつつあると感じる。そんな変わりつつある深夜ドラマについて書いてみたい。

深夜ドラマは主に23時台以降に放送されているドラマであるから、ゴールデンやプライムタイムではできないような、より刺激的な内容がイメージされるのではないだろうか。実際、今年放送された、土曜ナイトドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日)などは、毎回、田中みな実演じるレコード会社の秘書・姫野礼香が「許さなーーーーい」と言ったインパクトの大きなセリフを放ち、放送されるたびにSNSをにぎわせた。

この田中のキャラクターは、1983年から放送のドラマ『スチュワーデス物語』(TBS)の片平なぎさを彷彿させるものがあり、昭和生まれの人には懐かしく、若い世代には斬新に映ったことだろう。こうした深夜ドラマならではのジェットコースター的な展開で刺激的な作品というのは、近年でも、金曜ナイトドラマ枠では、『奪い愛、冬』(2017年)や『ホリデイラブ』(2018年)など、毎年のように制作されてきた、いわば深夜ドラマのお約束のようなものでもある。

しかし近年は、こうした作品以外に、気軽に見られる中でも、ときに癒されたり、ときに考えさせられたりするものが多数生まれている。

近年の深夜ドラマが注目されるようになったきっかけとしては、「ドラマ24」などの枠を持つテレ東の存在は大きかったのではないか。この枠から『孤独のグルメ』や『昨日何食べた?』などの数々の名作が生まれた。

その枠で今年1月から放送された野木亜紀子脚本の『コタキ兄弟と四苦八苦』は、古舘寛治と滝藤賢一が演じる兄弟が、“レンタルおやじ”をする中でさまざまな依頼者と出会う物語である。毎回、兄弟が出会う人々は、ときに余命いくばくもない独り身の女性であったり、セルフネグレクトで汚部屋に住む女性であったりと、さまざまな事情を持っているのである。

一方で、今、個人的に最もアツい深夜ドラマ枠は、MBSの「ドラマイズム」とその姉妹枠の「ドラマ特区」ではないかと思っている。この枠は、漫画や小説原作の作品などが多いが、そんな中で、現代のザラザラしたリアリティを感じさせるものが生まれている。

特に、特にルポライター鈴木大介のノンフィクション「老人喰い」を原案に作られた『スカム』は、特殊詐欺の世界にやむなく入ることとなった青年を描いた作品である。2019年はNHKの『サギデカ』や『詐欺の子』など、特殊詐欺を扱ったドラマに秀作の多かった年だったが、『スカム』は、エンタメ的なスピード感もありつつ、特殊詐欺組織に取り込まれる若者の実情や格差社会などもリアルに描かれていた。特に、能力や、やる気はあっても、その行き場がない日本社会において、特殊詐欺の世界が若者の行き場のなさや、能力ややる気を拾い上げ、結果利用しているという笑えない現実もシニカルに描かれていた。

『スカム』の監督の小林勇貴と脚本の継田淳により、今年は漫画原作の『ホームルーム』という作品が同じくMBSで放送された。この作品では舞台『終わりのない』で文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞を受賞し『情熱大陸』でも取り上げられた注目の俳優・山田裕貴が、受け持ちの生徒を偏愛するド変態ストーカー高校教師を臆さずに演じている。

決して許されない行動をとる教師の「気持ちの悪さ」や「身勝手さ」、年長男性の持つ「加害性」に目を背けずに描き、その偏った愛情がどんなところに落ち着くのかをハラハラしながら見守ったが、倒錯した愛情というものは年齢によっても違うし、当事者間の合意があれば存在し得るものであり、そんな愛のギリギリの部分を、漫画原作とも違った解釈で、ジェンダー的なモヤモヤ感のない結末に持っていっていた。『スカム』のときのように、一気に見せてしまう力もあった。

昨今は、深夜ドラマだからこそ、現代のジェンダー観の変化を描く作品も多い。NHKのよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』は、腐女子の女子高生の三浦さんがクラスメイトでゲイの男子学生の純くんに、ゲイと知らずに告ったことからスタートする物語だ。

純くんは、妻帯者の男性と不倫をしつつも、「普通の幸せ」を望む気持ちもあり、三浦さんと付き合うことを選択する。しかし、純くんの三浦さんを好きな気持ちはあっても性的には反応できない苦悩や、同級生の心ない差別、そして親友に気持ちを知られてしまう展開もあり、誰にでもある身勝手さや痛みをここまであからさまに描いた作品はなかったのではないかと思われた。

NHKの「よるドラ」としては、ほかにも女子の地下アイドルにハマったOLを描いた『だから私は推しました』や、日本の母親の姿をRPGの世界で描いた『伝説のお母さん』などもある。

特に『伝説のお母さん』は、表向きはコミカルでファンタジックながら、そこに描かれた出来事は今の日本社会そのものである。ヒロインは、RPGの世界に暮らすお母さんである。勇者とともに魔王を封印した伝説の魔法使いながら、結婚、出産でその仕事を続けることは断念していた。夫は突然仕事を失い、「イクメンとか流行ってるから」と育児を始めるも、「おしっこならまだいいけどウンチのオムツを替えるのは男にはハードルたけぇだろ」とオムツを替えていない様子を見て、夫に内緒で子連れで勇者の仕事を再開する。そこから、ヒロインと夫は、自分たちのやり方を模索していくという物語なのだが、現代社会にある問題をファンタジーの世界で再現することで、逆にリアリティを増し、伝わることが多くなるのだと思わされたドラマであった。

こうしたファンタジーの中で現代社会を浮き彫りにする作品としては、この7月からテレビ朝日の「土曜ナイトドラマ」枠でスタートした『妖怪シェアハウス』がある。

舞台は現代の日本。ヒロインの目黒澪は彼氏に貢いだ結果、自分の家賃が払えなくなって帰るところをなくし、彼氏の家にかけこむが、二番目だと言われふられてしまう。行き場のなくなったヒロインがたどり着いたのは、とあるシェアハウス。そこには、お岩さん、酒呑童子、座敷童子、ぬらりひょんといった妖怪や幽霊や精霊たちが暮らしていた。かくして、ヒロインは妖怪たちとの奇妙なシェアハウス生活を始めるのだった。

登場人物のキャラが濃くてそれだけでもドラマとして面白そうなのだが、この原稿を書いている時点で放送されている一話から三話までを見ると、このドラマが確実に「フェミニズム」を描いていると感じる。一話で主人公の澪を裏切る彼氏は、四谷怪談のお岩さんを苦しめた伊右衛門に重ねられているし、二話で澪に就職セクハラをする編集者は番町皿屋敷でお菊を苦しめた青山播磨守主膳と重なるようになっているのである。

澪は毎回、男性に騙されるたびに「私が我慢すれば」とか「就職ができなくなるからもめごとはしたくない」と常にしりごみしているのだが、お岩さんらの励ましもあって、毎回、「女をバカにするな」と自らの力で反撃できるようになり、自己肯定感を取り戻していく。

今までは、酷い仕打ちをした彼氏や夫でも、「私が変われば相手も変わってくれる」と信じ、その結果、彼氏や夫が心を入れ替えた(ような)シーンがあれば、元のさやに落ち着いてめでたしめでたしというドラマも多かったが、自己肯定感やお金を奪い、傷つけられたという過去をなかったことにしてしまわない結末に毎回勇気づけられる。

深夜ドラマの変化は単に物語や企画が斬新というだけではない。世界に通じる作品が深夜ドラマ、しかも地方局からも生まれようとしている。

名古屋の放送局、メ~テレでは、2019年に、『淵に立つ』や『よこがお』の監督として世界的にも評価の高い深田晃司による『本気のしるし』が深夜枠で制作された。本作は星里もちるが2000年から2002年まで連載していた同名のコミックが原作で、深田によるドラマ化が発表されたときには、「あの深田監督が深夜ドラマを漫画原作で!?」と驚いたとともに、その可能性にワクワクさせられた。

主な登場人物は文具メーカーに勤めるサラリーマンの辻一路と彼が出会う葉山浮世という謎めいた女性。一路は会社では二股をかけているプレイボーイだし、浮世は男性とのトラブルも多く、何を考えているかわからない、いわゆるファム・ファタールなのだが、そんな風にカテゴライズをしながらあらすじを紹介した自分が恥ずかしくなるほど、人間が決して一面的なものではないことを実感させられ、これはどういうことを描いているのだろうと考えさせられる作品だった。

本作は、メ~テレとテレビ神奈川でのみ放送された作品であったが、その30分10話の放送を再編集したものが映画化され、第73回カンヌ国際映画祭「Official Selection 2020」に選出されることとなった。

海外では、テレビドラマと映画というものは、まったく別のターゲットがあり、内容もそれぞれの得意分野が違っているというイメージがある。しかし、日本では社会的なことを描いた作品や、フェミニズムがベースにある作品、そして何か単純ではないが何か現代に生きる人々が考えるべきテーマのある作品などが、NHKやTBSなどのゴールデンやプライムタイムのドラマでも見られるようになってきてはいた。

しかし、ここに書いたように、近年は深夜ドラマでもそうした作品がむしろたくさん見られるようになった。深夜ドラマの「挑戦的なことに取り組める枠」という性質が、こうした作品作りの後押ししているようにも思えるし、その可能性が深夜ドラマ発カンヌに出品という『本気のしるし』から見えたような気がする。2020年、私は深夜ドラマにポジティブな変化を感じている。

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西森 路代
1972年、愛媛県生まれ。ライター。大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国と日本のエンターテイメントについて、女性の消費活動について主に執筆している。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)、『大人アイドル~プロフェッショナルとしてのV6論』(サイゾー)などがある。