BIGLOBEの「はたらく人」と「トガッた技術」

技術カンファレンス裏話〜Internet Weekプログラムの作り方〜

Internet Weekは実務に役立つインターネット基盤技術を学べる非営利の技術カンファレンスです。イベントを裏方で支えるプログラム委員について、その苦労と魅力を紹介します。

はじめに

みなさん、こんにちは、ネットワーク技術部の山口です。

2022年11月末に開催されたJPNIC主催のイベント「Internet Week」にプログラム委員として参加してきました。プログラム委員は激務ですが、その活動を通じて大変多くのことを学んでいます。この場をお借りしてその醍醐味を紹介させてください。

Internet Weekについて

Internet Week (以下IW)は日本のIPアドレスやAS番号などの資源を管理するJPNICが主催し年に1回開催しているイベントです(前年に開催したIWから選りすぐりのプログラムをいくつか厳選し、 2日間に再構成したものを「Internet Week ショーケース」として年1回の開催とは別に開催しています)。

JPNIC公式サイトの記述を引用すると以下のような目的で開催されています。

インターネットに関する技術の研究・開発、 構築・運用・サービスに関わる人々が一堂に会し、主にインターネットの基盤技術の基礎知識や最新動向を学び、 議論し、理解と交流を深めるためのイベントです。

また、IWで得られたものをご自分のフィールドで役立てていただくことにより、インターネットの普及・促進・発展に貢献する(繋げる)ことを当イベントの目的としています。

IWの歴史は長く、1997年を最初に約25年の歴史があります。1997年以前はその原型として「IP Meeting」というイベントがあり、1990年から続いています(IP meeting は形を変え、現在もIWの一つのプログラムとして残っています)。

プログラム委員について

私とプログラム委員

IWにプログラム委員として参加することになったのは、2015年のIWからになります。 当時、30歳以下の若手エンジニアのコミュニティであった「wakamonog」の運営委員をしていました。wakamonogからもIWのプログラム委員を2人ほど毎年出しており、お誘いが来るようになったのがスタートです。

その後、2020年を除き、毎年プログラム委員を務めることになり、今年で7年目となりました(2020年はCOVID-19の影響で完全オンライン開催になってしまい、オンラインのコミュニケーションに不安があったこともあり、参加を辞退しました)。

wakamonogはその名の通り若者のコミュニティですので、30歳を超えたら運営委員を引退するというルールがありました。そのため、私もwakamonogを卒業したあとは、所属するコミュニティや団体がなく、プログラム委員は引退かなと思っていました。

ただ、当時から私はwakamonogとは別に、自宅に設置した機材でグローバルASを運用し、若手エンジニアの検証環境などを支援するHome NOC Operators' Groupという活動をしていました。JPNICの方から、その活動での知見もIWで活かして欲しいというお声掛けがあり、以降はHome NOC Operators' Groupの団体名で参加しています。

昨年からは同じ団体に所属する若手エンジニアであるIIJの人と2名でプログラム委員に参加するようにして、若手プログラム委員の育成にも務めています。

プログラム委員の決まり方

前項で所属団体のお話をしたのは、IWならではのルールがあるためです。IWではプログラム委員は広く公募されていません。JPNICからインターネットの発展に貢献している団体や技術コミュニティからプログラム委員を推薦する形です。その団体やコミュニティの中でIWに参加するかどうかや、誰が参加するかを決めて、プログラム委員を出すことになっています。

これはIWが非営利かつ中立的な技術カンファレンスであり、特定の企業のビジネスカラーを出さないようにするためでもあります。そのため、インターネット関連のどこかの団体に所属していることが必要であり、「BIGLOBEの誰々です!」と企業に所属しているだけでは基本的にはプログラム委員に参加することはできません。

ここが面白い!プログラムの作り方

ネットワーク系のコミュニティやカンファレンスだとJANOGAPNICなどがありますが、多くのカンファレンスにおいてCFP(Call For Presentations)が運営サイドから出され、それに応募してきたプログラムを審査して採否を決定することが多いと思います。

IWではこの部分が大きく異なり、最近は以下のようなプロセスでプログラムを作っています。

  1. プログラム委員と実行委員が今年のテーマを決める
  2. テーマに沿って or 今年のホットトピックから具体的なプログラムを決める
  3. 決めたプログラムについて発表してくれそうな人を探す

自分たちであれこれ考えて、プログラムを作っていくプロセスは簡単ではありません。専門知識はもちろんのこと、その分野で最近どのようなことがホットトピックであるか、社会的にどのような課題があるか、などについても分かっていることが求められるからです。しかし、自分の考えたことが、一つのプログラムとして仕上がり、多くの人に見て頂き、インターネットに貢献できるというのはエンジニアとしてとても楽しく充実した時間であると思います。

正直プログラム委員の活動はかなり大変なのですが、毎年続けている理由はここにあったりします。

Internet Weekならではの難しさ

このようなプログラムの作り方をしているゆえの難しさもあります。

発表者との調整

テーマやプログラムを決めたら、その内容について話して頂ける方を探して発表の交渉を進めることになります。発表者の方は業界の有名人やその分野のスペシャリストですから、当然ながらしっかりとしたご意見や考え方をお持ちです。それがプログラム委員とピッタリ合えば良いのですが、若干のずれがあり、交渉や議論を重ねることもあります。

また、発表をお願いしても断られてしまうことがあり、発表してくれる方を探し回ったり、プログラムの内容を見直すこともあったり。もちろん、毎年常連で発表をして頂いており、今年もお願い!と一言伝えるだけで、うまく発表してくれる方もいらっしゃったりします。

全体のバランスを考えて

「今年のホットトピックから具体的なプログラムを決める」と前項に書きましたが、話題のプログラムだけをやっていれば良いわけではありません。例えば、あまりアップデートは無いけどインターネットにとっては必要なことや、基礎的なことだけど若手エンジニアのためにやった方が良いテーマってありますよね。この辺りをバランスよく考えていくのも大切です。昨年は基礎的なプログラムとしてAS運用の基礎知識についてネットワーク技術部の前野さんにお話し頂いたりしました。

【Internet Week Basicオンデマンド】

  • AS運用ことはじめ パートI
  • AS運用ことはじめ パートII

www.nic.ad.jp

集客の大切さ

プログラム委員としてプログラムを作るからには、多くの方がそれを見て、業務などに役立てていただきたいと思っています。また、ここ数年はオンライン開催メインであり、それほどでもなくなりましたが、Internet Week の開催には多くの費用が掛かっています。そのため、多くのお客さんにプログラムを見て頂くため、プログラム委員はある程度集客も意識し、決まったプログラムは様々なメディアで宣伝をしていたりします。

最近はJPNICのブログとYouTubeチャンネルでの集客が中心です。

JPNICのYouTubeチャンネル:www.youtube.com

私も担当したプログラムの宣伝でひっそりとYouTubeデビューしてたりします。 www.youtube.com

今年のテーマとプログラム作りの舞台裏

今年のテーマは、「インターネットの羅針盤 ~ 針路を未来に」でした。昨今のインターネットはサイバー攻撃やスプリンターネット(政治などを理由に、自由なはずのサイバー空間が国や地域間で分断されてしまう状態)など穏やかでない話が多いかと思います。そんな中で、改めて「自立分散協調」のインターネットの考え方を思い出し、IWに関わる方が、どう進むべきか議論をしたいという思いが込められています。

会期中のプログラムの数は約40以上、プログラム委員は30名近くになるため、具体的な検討は専門分野ごとのチームに分かれておこないます。今年は「ネットワーク運用管理」「セキュリティ」「社会派」「IPv6」「基盤サービス」「新テーマ」「ハンズオン」の7チームに分かれました(配信やIP Meetingは別枠でチームがあります)。

私はBIGLOBEでバックボーンネットワークや対外接続を担当しているネットワークエンジニアなので、「ネットワーク運用管理チーム」に毎年入っています。最近は、インターネットガバナンスなどに興味があり、機会があれば「社会派チーム」にも関わってみたいと思っています。

ネットワーク運用管理チームで作り上げた今年のプログラムは次の5つで、私は「C15 インターネットセキュリティ」「C54 Peering入門」の2つを中心にプログラム作りを担当しました。ルーティングセキュリティのプログラムへの思いは、上にリンクを張ったYouTubeでお話していますのでよろしければぜひご覧ください。

多数あるプログラムの候補の中から議論を重ねて上記の5つが決まりました。候補から外れた理由は様々です。例えば「400Gネットワーク」は話題性はあるものの時期尚早と判断しました。IWはどちらかというと、有料のカンファレンスに来てもらって、業務に使える知識を持ちかえってもらう的な側面もあるためで、今年は見送りになりました。

その他にも良いところまで検討が進みましたが、様々な事情により立ち消えになってしまったプログラムもありました。可能なものについては来年ご提供できるようにチャレンジしたいと思います。

こんな議論を繰り返しながらプログラムを作っています。

当日の話

様々な準備を重ねて迎えた開催当日、プログラム委員は担当セッションの司会の仕事があります。

オンラインセッションの場合、自宅やオフィスから出てもいいのですが、私はJPNICのスタジオに行って司会をしました。機材の整った立派なスタジオで司会をするのは少し緊張してしまいますね。これだけ設備が揃っていると、質疑応答のハンドリングなどもとてもやりやすいです。

筆者が司会をしている様子

終わりに

IWのプログラム委員は激務ではありますが、毎年学べることがとても多い場になっています。来年はお声掛けがあるか分かりませんが、あった際には続けていきたいと思っています。日本を代表するインターネット接続事業者であるBIGLOBEのエンジニアとして、このようなイベント作りに関わることに価値があると思いますし、今後も何らかの形でIWには貢献していきたいと強く感じます。

BIGLOBE社員が大事にする価値観であるビッグローブマインドに「世の中をみて、世の中から学ぶ」があります。 イベントに参加するだけでも学びはあります。さらに「イベントを作る側や発表する側」にまわれば、より大きな学びがあります。一歩踏み出して、世の中から学んでみてはいかがでしょうか。

例えば、JANOGのプログラム委員など、公募のあるプログラム委員もあります。以前、前野さんが取り組んだJANOGのネットワーク構築ボランティアについても次の記事で紹介しています。よろしければご覧ください。

style.biglobe.co.jp

以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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