2020年2月13日、イノベーションを起こす人や新しい働き方をピックアップするメディア「BIGLOBE Style」のオープンを記念したトークイベント「BIGLOBE Style イノベーションミーティング2020」が渋谷・ユーロライブで開催されました。
ステージに現れたのは多様な業界で活躍するイノベーターたち。法律家 水野祐さん、NONA REEVES 西寺郷太さん、DIGDOG代表 陳暁夏代さん、編集者 仲山優姫さん、リーマントラベラー 東松 寛文さんの5人をスピーカーに迎え、モデレーターを映画解説者 中井圭さんが務めました。
「イノベーション」をテーマに二部構成で行われたクロストークから、令和の日本を加速するヒントが見えてきました。その模様をダイジェストで全2回にわたってお伝えします。
ポッドキャスト、越境するトレンド……イノベーションを加速するキーワードとは
序盤は「イノベーションを加速するキーワード」と題し、スピーカーの5人が注目している話題をトークテーマに据えて議論を交わしました。
中井:最初のキーワードは「ポッドキャスト」です。どなたの発案ですか?
西寺:僕です。米国ではニュース企業がポッドキャストに多額の投資をしていて、Podcasterと呼ばれる配信者にもビッグネームが出てきています。これまでは「映像・ビジュアルの世紀」というか、スマートフォンの動画体験に皆が夢中になっていましたが、今は視界を別のことに使いながらコンテンツを楽しむ体験が支持されるようになってきたと感じます。
西寺 郷太(NONA REEVES/音楽プロデューサー/作家)
1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド「NONA REEVES」のシンガー、メイン・ソングライターとして、1997年デビュー。以後、音楽プロデューサー、作詞・作曲家として多くの作品、アーティストに携わる。日本屈指の音楽研究家としても知られ、近年では特に80年代音楽の伝承者としてテレビ・ラジオ出演、雑誌連載など精力的に活動。代表作に小説『噂のメロディー・メイカー』(扶桑社)、『プリンス論』(新潮新書)など。
中井:次世代の移動通信システム――5G、6Gの時代が到来すると言われていますね。何でもできる環境下で、あえて制限があることで広がりが生まれるというか。
西寺:人間は何でもできる状態になると、まずは一回やってみて、そこから段々とストイックになっていくと思います。例えるなら、ずっと坊主頭だった野球少年が茶髪にしたりパーマをかけたりした後に、結局クルーカット(角刈り)に戻っていくみたいな(笑)。インターネットでも一周回ってSNSをやめる人が増えていますよね。ポッドキャストの流行も、その象徴なんじゃないかと。
東松:「歩きスマホ」をしていると危ないので、僕は移動中にradiko(スマートフォンアプリ)でラジオをよく聴いていますね。
西寺:radikoは時間を問わずに番組を視聴できる点がポッドキャスト的ですね。ラジオはオンタイムでしか番組を楽しめないことや、マネタイズの手法が限られていることに課題がありました。ポッドキャストの場合、音楽ストリーミングサービスと一体で課金できるようにもなったことも大きな変化です。
水野:radikoの仕組みはラジオ局が企業を超えて協力した、一つのイノベーションだと思います。しかしその土壌として、ラジオ業界全体が右肩下がりになっている危機感がありました。ポッドキャストも音楽ストリーミングサービスが普及したことで、ようやく流行する状況になったのではないでしょうか。
2020年以降のコンテンツに問われるのは、届け方のデザイン
中井:続いてのキーワードは「国境とトレンドの関係性」です。これを挙げたのは……陳暁さんですね。
陳暁:日中韓をまたぐマーケティング案件を担当する中で、「トレンドに国境がない」と感じています。インターネットによって情報の垣根がなくなり、ファッション・音楽の流行や、一つのコンテンツに対する解釈が同時性をもって広がるようになりました。
陳暁 夏代(DIGDOG 代表)
日本と中国の背景を持ち、2009年より中国にて数々のイベント司会・通訳を行う。その後上海にてイベント立ち上げやコンサルティング会社での日系企業の進出支援に携わる。2011年より北京・上海・シンガポールにてファッションイベントの企画運営を行う。2013年に東京へ拠点を置き、広告代理店で企業ブランディングや商品開発・販促を担当。2017年にDIGDOGを立ち上げ、日中双方のカルチャーに寄り添ったブランディングや若年層マーケティングを手がけている。
仲山:言語の壁がないイラストと比べるとマンガはまだまだ国境を感じますが、コルクでは常に海外展開を意識していますね。私が編集を担当しているマンガ『宇宙兄弟』は、中国語版のコミックが日本と同時に発売されます。
陳暁:日本のマンガは今でこそ公式の翻訳版がタイムリーに手に入りますが、昔は素人が翻訳した海賊版が読まれていました。中国で違法アップロードが長らく対策されなかったからこそ、日本のコンテンツのファンが増えたという功罪もあると思います。
水野:僕の専門領域は法律ですが、何事もバランスが重要だと思っています。海賊版の規制が強化されることで日本のコンテンツに自然と接触する人口は減るかもしれませんが、日本のコンテンツを買い付ける中国企業も増えています。
水野 祐(法律家)
法律家。弁護士(シティライツ法律事務所)。Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。東京大学大学院人文社会系研究科・慶應義塾大学SFC非常勤講師、リーガルデザイン・ラボ主宰。グッドデザイン賞審査員。IT、クリエイティブ、まちづくり分野のスタートアップや大企業の新規事業、経営企画等に対するハンズオンのリーガルサービスや先端・戦略法務に従事。行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』など。
陳暁:2020年以降のIP(知的財産)の考え方として、「公開・非公開」を決めることも表現の方法になってくると思います。オーディエンスを育てたいなら公開する、深みに入ってほしいなら非公開にする、というような。
水野:なるほど。「届け方のデザイン」というか。
陳暁:選択肢が増えましたよね。私がイベントを企画するときも、あえて撮影禁止にすることがあります。
セレンディピティに一歩踏み出すための投資
中井:次の「コンテンツ費」というのは?
仲山:これは私が所属しているコルクの制度です。月に3万円まで、自由にコンテンツに使っていい補助なんです。コルクで作家のファンブログなどを運営していると、コンテンツに気軽に使える予算は月収の1%〜3%程度というのが実感でして……。皆がエンタテインメントにもっと気軽にお金を使えるようになればいいな、と思って紹介しました。
仲山 優姫(編集者/株式会社コルク)
編集者。立命館大学政策科学部卒。人材広告会社の営業職勤務後、動画制作のディレクター業務などを経て2015年にコルクに入社。クリエイターのエージェント会社コルクにて漫画家の小山宙哉/こやまこいこのマネージメント・作品編集業務を担う傍ら、フォトエッセイ『一瞬の宇宙』(KAGAYA)、新書『宇宙に命はあるのか』(小野雅裕)、絵本『やねの上の乳歯ちゃん』(鳥居みゆき)など、年に数冊書籍編集を手がける。
陳暁:コンテンツに触れるハードルとして、お金の要素って大きいんですね。補助があると、自分が普段は課金しないことにも取り組めそうです。
東松:すごくいいですね。自分の興味から一歩踏み出す、イノベーションにつながる原動力になりそうです。サラリーマンの立場からすると、給料を自分の知っているもの以外に投資するのって難しいんですよ。
西寺:音楽イベントでも、ジャンルの違う出演者が集まっていると集客のハードルが上がりますね。ワンマンライブや関連したアーティスト同士のライブに人が来るんです。
水野:面白い論点ですね。「人は新しいことを見たくないんじゃないか?」という。僕としては、知らない人やものに触れられることや普段は聞けないことが聞けることに興味を持てる状況をどう作っていけるかに興味があります。
中井:うんうん、ある種のセレンディピティがあるんじゃないかと思います。
次々と挙がるイノベーションを加速するキーワードから垣間見える、2020年以降の新しい可能性。異業種イノベーターたちによる丁々発止のクロストークはどんどん熱を帯びていきます。以降、BIGLOBE Styleイノベーションミーティング2020レポート後編(3月25 日公開)に続きます。どうぞ、ご期待ください。
後編はこちら。
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