こんにちは、BIGLOBE 基盤本部 基盤統括部にて、新サービス創出活動推進を担当している吉川です。
2021年4月より「技術を通して、もう1つの通信を考える」をテーマに、多摩美術大学 情報デザイン学科の永原教授、清水講師、学生の皆さんとの産学共同研究プロジェクトを実施しました。
今回の記事では、今までの集大成として作品を発表した多摩美術大学オープンキャンパスの模様に加えて、有志の学生4名とBIGLOBE社員とのオンライン意見交換会をレポート形式でご紹介します。
学生はどんな想いで作品を作り上げたのか? 大学と企業が連携した半年間の取り組みを通じて、どんな化学反応が起こったのか? など、ぜひご覧ください。
多摩美術大学 × BIGLOBE 産学共同研究プロジェクトとは
インプットの講義や学生のアイデア発表を含めた創作活動の過程をBIGLOBE社員がオンラインでリアルタイムに参加及び録画視聴できる環境を作っています。
学生の作品制作のプロセスへの参加を通じて、Z世代が通信というものをどのように考え、認識しているのかといったことへの気づきや、学生のアイデアからインスパイアを受けることで、BIGLOBE社員が将来の新サービス検討などの新しい取り組みにつなげていくことを目的に取り組んでいます。
多摩美術大学オープンキャンパス2021
7月17日、18日、多摩美術大学 八王子キャンパスにてオープンキャンパスが開催されました。2021年度は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、両日とも1500人の「完全予約制」となった当日の様子を写真でご紹介します。
各学科別の作品展示が行われ、BIGLOBEとの産学共同研究プロジェクトを実施した情報デザイン学科の作品も展示され、学生が自身の作品について発表を行う機会がありました。
当初はBIGLOBE本社オフィスで、感染対策を徹底しながら成果発表会を行い、作品展示やプレゼンテーション、学生と社員の直接対話を計画しておりましたが、新型コロナウィルスの感染拡大状況悪化に伴い、やむなく中止することになりました。
その後、学生から作品解説シート(作品制作の背景や狙い、どのようなモノなのかの説明をまとめたもの)を提出していただき、そちらをBIGLOBE社員が見たうえで、オンラインで意見交換会を呼びかけたところ、有志の学生4名とBIGLOBE社員8名に参加いただきました。
「技術を通して、もう1つの通信を考える」というテーマから生まれた作品について、学生とBIGLOBE社員の間で活発な意見交換が行われました。
多摩美大生 × BIGLOBE社員 意見交換会
【学生の参加メンバーと作品】
「Language of Nature(自然言語)」
■大浦 彩さん
「記憶の海(死者との通信)」
■JUNG JIEYUNさん
「あなたの言語はどんな模様をしていますか?(マルチリンガルから見た言語による内面の変化をビジュアライズする)」
■井川脩人さん
「イシ疎通(感情に触れる、思う)」
酒井 優実さん「Language of Nature(自然言語)」
学生:この作品は、植物が私たちに提供している言語をアートにした作品です。植物は目の前にありながらも日常生活では通信することが不可能ですが、生物学なども引用した新たな言語を制作する作品を試みました。
学生:最終的なアウトプットは、説明を読まないとわかりづらいかもしれませんが、アナログながら新しい通信の形をBIGLOBEの社員の方がどう感じたのか聞いてみたいです。
社員A:植物の連続性がよく現れていて、自然の本質を捉えた作品だと個人的には感じました。同時に私自身、子供の頃に地球外にいる生命体でも理解できる言語にロマンを感じたのですが、ここで表現しようとした自然の本質がそこに繋がって面白いなと思いましたね。
学生:作品と照らし合わせて、そう言っていただけて嬉しいです。作っていて、植物の言語を表現できたことに私もロマンを感じました。
社員A:同じ作品を同じ会社の人と見たらどういう会話が生まれるのかや、その会話を聴きながら作者がどう感じるのかを楽しみにしていました。今回はオープンキャンパスに参加できず、オンラインでの意見交換会になりましたが他の方がどう感じたか、私も聞いてみたいです。
社員B:植物の言語をデザインしようという発想にまずびっくりしました。しかも、できあがった作品は訳のわからないものではなく、本当にありそうなリアリティまで感じました。
学生:植物がこんな滑らかに変化しているのは、作品を作っているうちに気づき、私自身も驚きました。音楽や楽譜のようなものになっているなって!
社員A:目に見えないけど、そこにあるものを捉えたというのは素敵ですね。
社員C:私は講義の初期フェーズから構想を聞いていたのですが、この作品は最終的にどういうふうになるのか正直想像もつきませんでした。できあがって作品を見たとき、植物が何を言おうとしているのか人間にもわかるように変換してくれるようなツールは全くないので面白いと思ったし、それを強い意思を持って形にしているのがすごかったですね。
社員A:今、IoTのセンサーで農作物をどうやったらより良く育てられるかという分野の研究も進んでいます。この作品を見て、どうすれば植物が気持ちよく育つのか?という視点で考えると、そうした研究も受け入れられやすくなるのではないかと感じました。
学生:IoTに関しては以前から興味があり、私も改めて勉強してみたいと思いました。
清水講師:植物の声をリスペクトを持って聞いていたと思います。そして、自然言語は人間の声だけなのか、植物の声も聞くとどういうことができるのか、SDGsなども含めて、もっと大きいこともできそうだと感じました。
永原教授:説明を読まないとわかりづらいかもと冒頭に言っていましたが、そんなことはなく、この作品はグラフィックの表現力がとても優れていて、毎日コツコツ調べることができるのも才能です。こういう作品は説明しがちになるところを、説明を抑制しても形になっているところが素晴らしいですね。
大浦 彩さん「記憶の海(死者との通信)」
学生:もし死者からメッセージを受け取った時、生きている私たちは相互的に通信することはできません。しかし、お線香をあげたりお花を活ける弔いによって、死者と心を通わせられると考えられてきたことからも、この作品は死者の国に最も近い波打ち際で、鑑賞者が言葉に出会い、思い、海の先に無事還れるように願うという想いがこめられています。
社員D:現代版精霊流しですね。実際にこの作品を会場で見ることができなかったので、どんな言葉が書かれているのか知りたいです。
学生:友達の口癖とかSNSに寄せている文章に目を通して、思い出深そうな言葉を拾ったり、いろいろな人が最後に言いそうなことをまとめたのです。
清水講師:コロナ禍で法事がオンラインになったという話を聞いたのですが、亡くなった人に思いを馳せるような割り切れない気持ちを処理するような通信は今までありませんでした。大浦さんのように、その感情を処理しないように処理する、漂わせるみたいな通信が作品として表れているなと思いました。
社員A:最初この作品の写真を見たときに、正直辛いなと思いました。強さがある作品で、死に向き合った際の感情を思い出させるようで、会場で実際に見たら泣いてしまうかもと。でも、死について語り合うのが減った現代であっても、こうした「感情を動かす作品」を目の前にすればより深い対話ができるのかも、と思いました。
社員E:私が亡くなるときは私のTwitterつぶやきを、このように表示してもらえると嬉しいと思いました。くだらないつぶやきばかりですが、私が言いたかったこともいくつかあり、それを改めて伝えたいというか、認識してもらえる機会ともなるなと感じました。
学生:私自身も、自分の身近な人が亡くなったのをベースに発想した作品でした。でも、一般的に死のテーマは怖いし思い出したくないものかもしれませんが、死に対するテーマでポジティブになりたいという想いが昔からあり、それも表現してみました。
社員C:早い段階で文字を動かすデモを流していたので、気になっていた作品の1つでした。しかしビジュアルだけではなく、こういう深いテーマがあるのが一番驚きました。日本文化にある、尽くしきれない想いみたいなものが表現できていたかなと思います。
JUNG JIEYUNさん「あなたの言語はどんな模様をしていますか?(マルチリンガルから見た言語による内面の変化をビジュアライズする)」
学生:私自身、韓国からの留学生で、ある日ふと、言語によって変化している自分の姿に気づきました。言語によって違う姿が表れるのは、すなわち言語というトリガーを通して潜在していた無数の自分の中の一部を引き出しているからなのではないかと思います。この経験を、皆さんにも是非感じて欲しいと思います。
画面に映っている3つのグラフィックは、左から韓国語、日本語、英語の順になっていて、真ん中にあるマイクでその言語を発すると、画面が変わります。言語に関してのグラフィックや色には、JIEYUNさんが今までこの言語を使いながら感じた経験、思い、その言語への理解度などが含まれています。
社員A:これは会場で実際に体験したかったですね。JIEYUNさんのように、言語を深いレベルで理解しているマルチリンガルの方を思考法を、そうでない自分が体験できる作品だなと感じました。
社員F:私は海外で仕事をすることもあったので、母国語ではない言葉をしゃべる場合は、語彙力がない分ストレートな表現になってしまいました。JIEYUNさんのこの作品では、さらに言語によってキャラクターまで変わることが表現されていたので興味深かったです。
学生:そうですね。たとえば、地元の友達や家族としゃべる時はラフな性格で、会社の面接などでは尊敬語などを使うなどのように、環境やシチュエーションによって性格も変わりますよね。
社員A:たしかに同じ日本語でも、会社の日本語と家での日本語は違うかもしれないですね。
社員D:日本語に無いけど、英語にあるという単語が、どういう意味や感情を持つのかがわかる、そのためのツールの1つにもなりそうですね。
清水講師:そういったいろいろな言葉をマイクを通じて発してみた時に、それがビジュアルで表現されるのは面白いです。まだ答えがない世界だとも思うので、今後もJIEYUNさんのライフワークのように取り組んで欲しいなと思いました。
学生: 実はこの作品はまだ完成したとは思っていません。違う表現もあるんじゃないかなと常に問いながら、これからもブラッシュアップしていきたいです。
井川脩人さん「イシ疎通(感情に触れる、思う)」
学生:通信技術が発達した時代に、通信できづらいものを探して参考にしたのが「石文」というコミュニケーションです。日本の映画「おくりびと」にも出てきますが、言語がなかった時代に自分の気持ちに似た石を探して相手に贈り、相手はその石の感触や重さから相手の気持ちを読みとくというものです。
この石文の要素を取り入れたアナログで時間をかけたコミュニケーションで、相手の気持ちを深く考えることができるワークショップと装置を制作しました。
清水講師:これは会場で体験して欲しかったですね。ワークショップでは、まず、ショートムービーの映像を見てから、その感想にぴったりの石を目をつぶって探します。最後に石にビジュアライズした布の中にあるアクリル箱の中に入れる……相手も箱に手を入れ石を触りながら、どんな感情を得たのかを感じとるという仕組みです。
社員A:石はどこにでもあるし、たくさんある。そんな石でも、相手を思いやる気持ちや考えを伝えることができる。それこそが通信の本質ですし、そこに気づいたのがすごいと思います。また、私自身BIGLOBE側の人間として、アナログなコミュニケーションに価値を置いているのが発見でした。質感を捉えるというのはデジタルでは失われがちだからです。
学生:今までは100%で伝えようとしていましたが、曖昧な情報でもいいんだな、曖昧なコミュニケーションだからこそ広がるものもあるんだなと感じ、その時に石を見てこの作品を思いつきました。
社員D:現代の通信の本質に対するアンチテーゼとして面白いなと思いました。相手を思いやること、気持ちを込めることが大事だと。
清水講師:今の通信は読み取りやすいし、伝えやすいことを目指している。けれどこの作品は、さぁ石から内容を読み取ってみようと思っても、一瞬何も浮かばない。けど読み取ろうと試行錯誤してると、段々と自分の持っている語彙では表せないような感情が出てくる…
社員D:体験してみたかったです。
社員A:石を触っている間はオフライン。マインドフルネスのような感覚になりそうですね。
社員C:相手のことをどれだけ理解するか、考えてもらえるかがこの作品にはありますよね。“石で意思を伝える”とあったので単なる語呂合わせかと最初は思いましたが、とても深い意図があったことを感じ驚きました。
社員G:コミュニケーションで私が大事だと考えているのは、何か新しいギャップを感じる(新たな知恵を得る)こと、本能的に人間はそういうことが好きなのだと思っています。この石を使ったコミュニケーションは、皆さんがおっしゃるように、画一的に言語や映像で届けるのではないので、さまざまなギャップ(考えを)得るきっかけになりそうだと感じました。
意見交換会を終えての感想
学生1:私は難しいことが苦手で、最初は企業と一緒にやるのかぁという偏見もありましたが、完全に払拭された会でした。世界の見方が変わる貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
学生2:私もはじめは偏見を持っていたなと思い至りました。否定的なことを言われしまったら嫌だなと思いましたが、本当に歩み寄ってくれた上でアドバイスをしていただけたので嬉しかったです。
学生3:産学連携プロジェクトを通じて、多摩美術大学の関係者だけではなく外部の方々の声も大事だと改めて思いました。同時に、最初はBIGLOBEはどんな作品を求めているのかなと思ってしまいましたが、結果的に嬉しいコメントをいただけて良かったです。
学生4:自分の作品を一人でも多くの人に届けたかった。それを事業として通信を考えているBIGLOBEさんに、「もうひとつの通信」という形で届けてみて、共感いただけたので、今回の意見交換会に参加できて本当によかったです。
永原教授:私は講義の課題を通じて学生に向けてサーブを打っているつもりでいます。さまざまに考えて今回のテーマは「もうひとつの通信」にしました。たとえば「未来の通信」としたら、もっとコミュニケーションスピードが速い作品を打ち返してきたでしょう。結果として「ちょうどいい」や「スロー」のような広がりがある作品が生まれ、学生たちが考える「オルタナティヴ」をみることができました。
清水講師:BIGLOBE の社員さんは、いつもは最先端で効率的なシステムを構築する仕事が多いと思うのですが、今回の共同研究では、仕事での価値観と真逆の作品も多かったと思います。その中で、アートを受容する姿勢や、いろいろな角度からのアドバイスをいただけたのが良い意味での驚きでした。ありがとうございました。
最後に
後日、産学共同研究の活動に参加してくれた社員に直接インタビューしたところ、
「美術大学生という触れ合ったことのない人たちの考え方を聞いて、とても刺激を受けたし、参考になった。また、同じような機会があれば、ぜひ参加したいと思っている」
といったコメントがありました。
学生との共創という初めての取り組み、なおかつコロナ禍という環境もあり、難しいこともありましたが、最終的に、学生、社員の双方からポジティブなコメントをいただくことができました。以上で、多摩美術大学とBIGLOBEの産学共同研究「もう1つの通信」の活動は終了となります。
私も学生の授業に参加させていただく中で、普段接することのない美大生のアイデアを聞くたびに、多くの学びがありました。また、作品制作のスピード感やアイデアを形にする力についても大いに刺激を受けました。 新サービス創出活動を推進する立場として、得られた学びを活かしながら、さらに新しい取り組みを進めていきます。
この産学共同研究活動のテーマ作りや講義はもちろん、BIGLOBEの活動に対して理解いただき、多大なサポートをいただいた多摩美術大学 情報デザイン学科の永原教授、清水講師及びたくさんの関係者の皆様、本当にありがとうございました!
ーーーーーーーーーーーーーー
多摩美術大学のWebサイトでも、この活動を紹介いただきました!
【BIGLOBE×情報デザイン】これまでにない通信方法の発明に取り組む共同研究を実施 | 多摩美術大学 アクティビティニュース
ーーーーーーーーーーーーーー